2014年12月25日木曜日

現代経済学とは成熟経済学である(2):低迷続く西側諸国:成長経済学に必死に抱きつく経済学者たち

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2014.12.25(木)  The Economist
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42529

低迷続く西側諸国:日本からの教訓
(英エコノミスト誌 2014年12月20・27日合併号)


●日本がバブル崩壊後の不況に苦しんでいた時は、欧米のエコノミストが盛んに説教をしたが・・・〔AFPBB News〕

 日本語で「Schadenfreude*1」は何て言うのだろうか?
 1990年代後半から2000年代前半までの大半の期間を通して、西側の経済学者や政治家は嬉々として、日本が資産バブルの後に犯したミスについて日本政府に説教した。

 だが、金融危機の引き金を引いた投資銀行リーマン・ブラザーズの破綻から6年経った今、多くの西側諸国はまだ、それなりの成長を生み出すのに苦労している。

 これらの国の中央銀行は、金利をゼロ近くに維持することを余儀なくされている。
 欧州諸国の国債利回りは、日本と同様、歴史的な低水準に落ち込んだ。
 経済学者やエコノミストの中には、「長期停滞(secular stagnation)」の新時代について話している人もいる。

■危機後に西側諸国が犯した過ち

 野村総合研究所のリチャード・クー氏の新著*2は、西側諸国もひどい過ちを犯したと主張している。

 「我々は経済危機だけでなく、経済学の危機も経験している」
と同氏は書いた。
 「大半のエコノミストは現在の危機を予測することができず、
 経済学に携わる職業そのものが、どんな対応を講じるべきかという問いに答えようとして完全な混乱状態に陥った」

 クー氏によると、2008年の景気悪化は、同氏が「バランスシート不況」と名付けたものだった。
 バランスシート不況は、民間部門が資産(特に不動産)に投資するために多額の借り入れを行った時に発生する。
 資産価格が下落した時も、債務の名目価値は変わらない。

 金利の引き下げは(債務の元利払いのコストを引き下げることで)多少役に立つが、人々に資金の借り入れを増やすよう促すことにはならない。
 企業や消費者はまだバランスシートを修復しようとしているからだ。

 「西側の大半の国の民間部門は現在、ゼロ金利にもかかわらず、債務を最小限に抑えるか、貯蓄を最大限に増やそうとしている。
 これは伝統的な理論とは完全に食い違う行動だ」。
クー氏は新著でこう書いている。

*1=ドイツ語から来た言葉で、日本語で言うなら「ざまあみろ」といった意味

*2=“The Escape From Balance Sheet Recession and the QE Trap: A Hazardous Road for the World Economy”, published by John Wiley

 そうなると、金融政策の効果が大きく減じる。
 資産購入のためにマネーを創出する量的緩和(QE)政策は、中央銀行のバランスシートを拡大させることに成功したが、銀行融資を押し上げたり、企業や消費者の間で流通する資金量を増加させたりすることはなかった。

 これで、QEが一部の人が恐れたハイパーインフレを招かなかった理由、また、クー氏の見解では、QEにあまり大きな効果がなかった理由が説明できる。

■バランスシート不況の下で大事なのは財政政策

 各国政府はむしろ、財政政策に集中すべきだった。
 2009年には大規模な景気刺激策が実施されたが、財政赤字の規模に危機感を募らせた各国政府は、早計に支出を削減してしまった。
 これらの政府は、早計な財政引き締めが景気回復を頓挫させた1997年の日本(あるいは1937年の米国)の例に注意を払うべきだった。

 大半の外国人が日本の財政政策は失敗だったと考えているのに対し、
 クー氏はそれが大成功だったと主張する。
 商業用不動産価格が87%下落し、企業が債務返済を急いだにもかかわらず、
 日本の国内総生産(GDP)はバブル以前のピークを1度も割り込んだことがない。

 財政赤字がなかったら、日本は大恐慌に苦しめられた可能性がある。
 実際には、日本の失業率は5.5%を超えたことがない。

 2008年以降、西側の政治家は、公共支出は無駄なことがあり、多額の赤字は国債利回りの急騰につながるという認識について心配し過ぎた。
 政府は、さもなければ利用されない資源の配分を間違えようがないだろう。

 大恐慌からの本格的な回復は、第2次世界大戦が生み出した財政刺激策に伴って始まった。
 当時は、政府が軍備や防空壕にカネを無駄遣いしていると不満を言う人は誰もいなかった。

 また、民間部門がこれほど貯蓄しているのだから、たとえQEがなかったとしても、国債利回りは極めて低い水準にとどまったはずだ。

 欧州では、構造改革に大きな重点が置かれてきた。
 すなわち、
 経済成長を高めることのできる、経済のサプライサイドの改革
である。

 だが、クー氏は、バランスシート不況の最中に構造改革に集中することは、患者が肺炎も患っている時に糖尿病の治療をするようなものだと主張する。
 改革は、効果を発揮するのに時間がかかり過ぎるのだ。

 2008年刊行の『The Holy Grail of Macroeconomics』でクー氏が最初に展開した主張は、その後に起きた出来事によって裏付けられた。

 だが、同氏が軽く扱う点がいくつかある。
 QEの副作用の1つは、資産価格が急激に上昇したことだ。
 それは企業と個人のバランスシートを修復したはずだが、民間部門はまだ借り入れを行っていない。
 なぜか?
 また、クー氏は恐らく、
★.長期停滞を支持する議論を十分に重視していない。
★.悪化する人口動態と
★.鈍い生産性の伸び
は重要だ。

 先進国の成長は、何十年も前から鈍化してきた。
 ソロモンの知恵を持った政治家でさえ、このような状況では悪戦苦闘したかもしれない。

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英エコノミスト誌の記事は、JBプレスがライセンス契約 に基づき翻訳したものです。
英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。


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