_
アメリカという超大国を向こうに回して、よくもここまでガンバったものだと敬服してしまう。
「負けられません勝つまでは」
をスローガンに立派なものである。
これだけの忍耐力があれば復興も大きく期待できる。
『
2014.12.24(水) Financial Times
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42524
米国との歴史的な雪解けに期待寄せるキューバ人
(2014年12月19日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
●雪解けを告げる収監者交換で米政府からキューバ人スパイ3人が解放されたことを祝い、キューバ国旗を掲げる人々〔AFPBB News〕
キューバのマリエルは、苦境にあえぐ地方都市だ。
荒れ果てた発電所と錆びたコンクリート工場がある町は、水深の深い湾に面している。
湾の向こう90マイル北にあるのが米国。
キューバの宿敵だが、最大の貿易相手国になる可能性を秘めた国だ。
1980年には、マリエルは米国への難民大量脱出の舞台となった。
今では昨年開業した総工費8億ドルの自由貿易地区とコンテナ港の方がよく知られている。
その間、米国政府はキューバ政府と秘密裏に協議を進めていた。
その交渉が、キューバに対する長年の貿易制裁を緩和するという12月17日の米国の歴史的発表に結びついたのだ。
■行き詰ったキューバ経済、市民の間に広がる期待感と高揚感
「この辺りの状況は大きく変わるでしょうね」。
地元の機械工ペドロ・コルデロさんは、マリエルの将来と米国との貿易関係の見通しに思いを馳せながらこう話す。
「もうすぐいろんな人がここにやって来ますよ。
ブラジル人、中国人、パナマ人、そしてアメリカ人がね」
コルデロさんと同様、大勢のキューバ人は、半世紀にわたる凍結を経て、米国は2国間の外交関係の再構築と通商関係の改善に向けて協議している述べたバラク・オバマ大統領の17日の発表に、期待、そして時に強い高揚感をもって反応した。
「すごい、すごい、すごい。
誰もがワクワクし、浮かれて、興奮しています!」。
カマグエイ州の州都で看護師をしているアナイダ・ゴンザレスさんはこう叫んだ。
18カ月間に及ぶ裏ルートでの交渉の後のオバマ氏の動きは、米国の禁輸措置に終止符を打つものではない。
それには議会の承認が必要だ。
にもかかわらず、わずかな資源をマリエルの近代的なコンテナターミナルに投じたり、国内の別の場所にピカピカのマリーナやゴルフ場を建設するというキューバ政府の決定は、ラウル・カストロ国家評議会議長がかなり前に、米国、キューバ両国の通商関係の正常化に全力を挙げて取り組む決意を固めたことを示唆している。
関係正常化がもたらす景気浮揚効果の必要性は次第に高まっていった。
カストロ氏の限られた経済改革
――その中には、中小企業を自由化することや、いくつかの生活協同組合が誕生することを認めることが含まれる――
が、キューバの行き詰まったソ連型経済に弾みをつけられなかったからだ。
キューバの最大の支援国であるベネズエラの経済危機が問題をさらに悪化させている。
ベネズエラは近く、キューバに毎年送っている数百億ドル相当の割安な原油を提供する余裕がなくなる可能性があるのだ。
米国とキューバの通商関係の緩和は
「キューバ経済の将来と投資の収益性について国際社会に非常に強いシグナルを発信する。
米国市場との近さを考えると、なおのことだ」。
キューバ中央銀行の元高官で現在はコロンビアのハベリアナ大学カリ校で教鞭をとるパベル・ビダル氏はこう話す。
「投資が実際に増えれば、成長率は年5~6%まで上昇する可能性がある」
最大の短期的経済効果は、キューバ系米国人からもたらされるとビダル氏は見ている。
というのも、キューバ系米国人は新たな規制の下で、キューバの親族に3カ月毎に現在の上限の4倍に上る2000ドルまで送金できるようになるからだ。
キューバが米国のテロ支援国家リストから除外される可能性があることも、海外からの投資や貿易を阻害してきた金融制裁に終止符が打たれる引き金になるだろう。
■米議会の対応やキューバの変化のスピードに慎重な見方も
外交筋は、米国とキューバは、オバマ氏が2017年に任期を終えるまで、ないしカストロ氏が引退を表明している2018年までに関係が完全に回復されることを望んでいると考えている。
だが、彼らは、米国の禁輸措置を終了させるのに必要な議会の承認の見通しや、キューバの変化のスピードについては慎重な見方をしている。
1つには、カストロ氏の経済改革プログラムの最も厄介な部分
――何通りもあるキューバの為替レートを一元化することや、国有企業に完全な自主性を与えること――
がまだ実行されていないことがある。
また、企業を誘致するために海外からの投資に関する法律が7月に改正されたにもかかわらず、キューバはまだ新規契約を1つも発表していない。
過去の経験からすると、キューバ政府は、経済改革の必要性と自由化の政治的リスクとの釣り合いを取りながら、ゆっくり動く可能性が高い。
「フロリダ海峡の向こう側の議題を我々は今詳しく知っているが、国内の議題はよくあるように、隠され、秘密にされたままだ」。
反体制派のブロガー、ヨアニ・サンチェス氏はハバナからこう書いていた。
期待感が広がっているにもかかわらず、不安を口にするキューバ人もいる。
彼らによると、国交回復によって、米国市民権の取得を比較的容易にする規制を利用しようとするキューバ人の移民の波が生じる可能性があるという。
規制が変わってしまうことを恐れてのことだ。
地元のツアーガイド、アレクシス・フェルナンデスさんは、今後数カ月で人々が「大挙して米国に足に踏み入れる」のではないかと心配していると話す。
■「やっと終わったのかもしれない」
それでも、キューバでの一般的なムードは熱狂であり、小規模な起業家たちは米国人訪問者が増える見通しに揉み手をし、ほかの人たちは日々の苦労が終わるかもしれないと期待している。
「誰もが笑みを浮かべています。 涙を流す人もいます」
と住民のイレレニー・サンティエステバンさんは言う。
「素晴らしいことです・・・
こっちでも、あっちでも、すべての人にとってこれから暮らしが楽になること、
そして、もしかしたら、やっと終わったのかもしれないなんて、本当に素晴らしいことです」
By Marc Frank in Havana and John Paul Rathbone in London
© The Financial Times Limited 2014. All Rights Reserved. Please do not cut and
paste FT articles and redistribute by email or post to the web.
』
『
ニュースウイーク 2015年1月14日(水)13時26分 ウィリアム・ドブソン(本誌コラムニスト)
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2015/01/post-3514.php
アメリカと和解したカストロ政権の大ばくち
ベネズエラの石油に頼れなくなったキューバはベトナム型の発展を目指す
オバマ大統領が冷戦時代の名残の1章に幕を下ろすことを決めた。
12月17日、53年ぶりに米政府の政策を転換し、キューバと国交正常化交渉を開始することを明らかにしたのだ。
これでアメリカ人の渡航が容易になるだけではない。
葉巻やラム酒など、あらゆるキューバ産品をクレジットカードで買えるようになる。
これまで「邪悪なヤンキー」をののしり続けてきたキューバのラウル・カストロ国家評議会議長も、それを歓迎する意向を見せている。
オバマにとって難しい決断ではなかった。
米政府のキューバ政策は明らかに失敗していた。
もともとの目標は、ラウルの兄フィデル・カストロがこのカリブ海の島国に打ち立てた社会主義政権を倒し、人権状況を改善することだった。
しかし外交関係を断絶しても、経済制裁を課しても、その目標を達することはできず、むしろキューバの人々を貧しくしただけだった。
国内の政治状況の変化もオバマの決断を後押しした。
2期目のオバマは次の大統領選でのキューバ系アメリカ人の票を気にする必要がないし、アメリカ人の過半数もキューバとの国交正常化を支持している(キューバ系アメリカ人の間にも歓迎する声が多い)。
オバマは、冷戦時代の遺物とも言うべき時代錯誤な政策を放棄しても失うものはない。
ただし経済制裁を解除するためには議会の同意が必要で、共和党が議会を牛耳っている限りその実現は難しいだろう。
キューバ政府側の事情はもう少し複雑だ。カストロ体制は追い詰められていた。
■国造りの手本はベトナム
後ろ盾だったソ連が崩壊した後、フィデルは南米の産油国ベネズエラのチャベス大統領(当時)と親密な関係を結び、大量の石油を格安価格で提供してもらっていた。
その安価な石油のおかげで、カストロ体制が存続してこられたと言っても過言でない。
キューバの反体制派は、ベネズエラからの石油を「キューバのバイアグラ」と呼んだほどだった。
しかしここにきて、頼みのベネズエラが破綻国家同然の状態へ滑り落ちつつある。
ラウルにとって、アメリカとの関係改善に方向転換するのは理にかなった動きだった。
キューバ国内の政治状況も無関係ではない。
キューバでは、カストロ時代の終わりが近づいている。
ラウルは18年の引退を予定しており、後継者には現在54歳のディアスカネル第1副議長を予定しているようだ。
近年、キューバは小規模な改革も試験的に始めている。
ラウルは革命政権型の政治を脱却し、手堅い行政官による政治へ転換することを目指しているようにみえる。
もしそうなら、アメリカとの和解は当然の選択だ。
オバマの突然の発表に対する米政界の反応は、予想の範囲内のものだった。
民主党の政治家たちは、ごく一部を除いてキューバとの国交正常化を支持。
共和党の政治家、特に大統領選に色気を見せている面々はオバマを弱腰と非難している。
独裁政権に譲歩した、というわけだ。
しかし、本当にリスクを背負っているのはキューバ政府だろう。
アメリカの敵対政策に経済成長の足を引っ張られてきたことは事実だが、国際的な孤立はカストロ体制に政治的な恩恵をもたらしてきた面もある。
61年以降、キューバでうまくいかないことはすべて、腐敗した資本主義帝国アメリカのせいにすることができた。
アメリカとの国交が正常化され、いずれ貿易も再開されればその主張は通用しなくなる。
キューバ政府は、いよいよ結果を出すことを求められる。
お手本はベトナムだろう。
起業家精神に富んだベトナムは、資本主義の果実を味わいつつ、一党支配体制を維持することに成功している。
キューバの現政権に、アメリカとの人的・経済的交流を一挙に増やしつつ、国民を怯えさせ、従順でいさせ続けるなどという芸当ができるだろうか。
カストロ体制にとって、アメリカとの国交正常化は一世一代の大ばくちだ。
』
_