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WEDGE Infinity 日本をもっと、考える 2014年12月05日(Fri) 弓野正宏 (早稲田大学現代中国研究所招聘研究員)
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/4510
監査で発覚
中国での国有地売却で消えた15兆元!
土地バブル、ゴーストタウン問題の元凶
中国の会計監査部門が全国各地で行った土地取引を巡る会計監査において驚くべき事実が発覚した。
2008年から2013年の6年間に中国各地で行われた土地割譲を巡る資金に対して会計監査を行ったところ
15兆元(当時レートで約240兆円)分の土地取引収入があった
にもかかわらず、その行方に疑問が呈されているというものだ。
多くが役人の懐に入った疑いがあるという。
記事を見る前に土地割譲を巡る会計監査について少し説明しておこう。
★.中国では「全ての土地が国有地」であるため、土地所有権の売買はできず、
取引されるのは「期限70年の使用権のみ」である。
ということで厳密に言えば割譲、売却ではなく、土地使用権の譲渡ということになる
(そこで以下では国有地売却と呼ばずに土地使用権の譲渡と称する)。
ではなぜ中央政府の監査部門が地方での土地使用権の譲渡に関する取引の監査を行うのか。
それは地方政府が農民や市民から土地を接収して開発業者に譲渡し、その収入を地方の財源にすると同時に、一部を中央政府に上納することになっているためだ。
中央に申告せずに勝手に譲渡して上納しないとか、土地接収の際に立ち退きさせた農民や庶民への補償金を支払わなかったり、補償金が不当に低かったりと彼らの反発を呼び、集団騒擾事件に発展する場合もあるようだ。
ただ再び断っておけば、
こうした農民や市民が住んでいた元々の場所も彼らに所有権があったわけではない。
今回の会計監査作業は8月中旬に着手され、2カ月半をかけて2008年から2013年の間に行われた土地割譲を巡る収支状況、非税収部分の資金管理状況が調べられた。
『華夏時報』が報道して明らかになったが、記事の内容がショッキングだったために様々なメディアにフォロー、転載されている。
そこで今回、この『華夏時報』による「2カ月半の土地監査が終了 15兆元の土地売却資金はどこにいった?」(ネット版11月7日)を紹介しよう。
■土地使用権譲渡に関する全国規模の監査
山西省国土管理部門の責任者が10月28日に明らかにしたところによると、この度行われた監査では、土地管理に関する政策策定のために土地使用権譲渡の資金が「どこからきてどこに行ったのか」という点に重点がおかれていた。
しかし、彼が国土管理部門の責任者だからといって中央から送り込まれた監査グループと接触できるわけではなく、内容は知らされず監査作業は厳しく行われたとのことだ。
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審計署はこれまで2007年、2009年、2011年に部分的地域において土地資金についての監査を行ってきたが、今回はこれまでとは異なり、全面的に行われたという。
地方政府の規定違反や土地使用権譲渡資金の減免、譲渡資金の支払い引き延ばしは頻繁なようだ。
河北省廊坊市では2009年に68項目の取り壊しプロジェクトがあったが、多くの村は当地国土資源部門に上納金を納めていなかった。
ある村は少なくとも6億元(約84億円)を納める必要があったにもかかわらずだ。
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■「第二の財政収入」としての土地使用権の譲渡
内蒙古自治区赤峰市の職員は、資金は様々なチャンネルを通じて個人の懐に入ったと述べた。
しかし同時に
「土地なくして企業はどう工場を拡張できるというのか。
土地を売らずして、建物を建築したり、社会福祉や実体経済を育てて税収を得られるようにできるのか」
と職員は問う。
「土地使用権譲渡の資金は地方政府が持つ債務支払いの資金源において大きな比率を占めるものだ」
と彼は擁護する。
この資金は「第二の財源」とさえも呼ばれているというのだ。
『華夏時報』(2014年11月7日) http://www.chinatimes.cc/hxsb/news/zhengce/141107/1411072142-138369.html
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2013年に地方政府による国有地使用権譲渡による収入が史上最高額の4兆1000億元(約66兆円)を記録した。
2004年に入札・競売・公示(通称「招拍挂」制度)が導入されてから中国全土で土地収入は7倍に急増した。
この度の監査は8月中旬に着手され、各市、県政府を対象に別の地域が監査をおこなった。
審計署の董大勝・副審計長(その後、9月に更迭された)が明らかにしたところによれば、今回の監査では2008年から2013年の6年間に行われた地方政府による使用権譲渡による収入15兆元がその監査の重点の一つだった。
これまで07年、09年、11年とそれぞれ地方の使用権譲渡収入に対して監査が行われ、その結果、地方政府の割譲において違反や譲渡資金の減免、土地利用組織の支払い引き延ばし、支払金の未納入等問題が後を絶たなかった。
そして資金の流用も見られたという。
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■地方は土地使用権譲渡の収入を中央に納入する義務があるが…
2010年に公表された監査結果では11の市で675億8000万元(約1兆円)の土地使用権譲渡による収入で問題があったがこれは総収入の20.1%を占めたという。
国土資源部の発表では、2013年に46の都市で使用権譲渡による上級政府への上納金未納は492億元(約7800億円)に上る。
それが土地使用権譲渡全部で15兆元だとすれば、そのどれだけが闇に消えたのだろうか。
2013年度について審計署の発表では2013年6月末までに全国各級政府の負債(中央に返済義務を持つものと思われる)は20億7000万元(約300億円)だったが、2012年末までで使用権譲渡の収入によって返還を約束していた債務残高は3億5000万元(約50億円)と全体の16.9%を占めた。
2004年以降、中国全土では国有地使用権譲渡による収入が急増を続けているが、国土資源部の統計では2004年の使用権譲渡収入は5894億元(約8兆円)だったのが、2013年には4兆1000億元(約66兆円)と急増した。
この土地使用権譲渡収入では中央ではなく地方が95%を占めた。
使用権譲渡の支払引き延ばしはしばしば発生している。
例えば今年8月以降、日照市では2010年、2011年に使用権譲渡の徴収状況についての調査を行った際に24社の企業が7億元余りの支払いを引き延ばしていたことが分かり、3807万元を徴収した。
国土資源部と審計署による監督や監査の報告によれば使用権譲渡の収支管理で多くの規範化されていない問題が存在している。
例えば2011年に行われた年間恒例の査察では51の都市での989項目の使用権譲渡で303億6500万元(約3800億円)の収入が徴収不足で、そのほかに少なからずの土地で規定に則らない支出も見られた。
地方政府が企業誘致をする際に土地を無償だったり、格安の値段での土地供与を行って少なからぬ国有地が喪失してしまった。
また深刻なのは使用権譲渡の収支管理が不透明で汚職が頻発していることだ。
ある統計では今年行われた監視団による3ラウンドの巡視で21の省のうち20の省で土地不動産を巡る汚職が発見されたという。
現在、地方財政はますます土地に依存するようになっており、
各レベルの地方政府の負債はみな「土地財政」と結びついているという。
実際に「地方財政のジレンマの形成は制度的要素にある」とも指摘され、楼継偉財務相は喫緊の課題は地方の財政難を緩和させることで合理的で整った地方税体系を構築することだと強調している。
しかしこのようなずさんな資金管理ではそれもままならない。
そもそも土地以外で収入を生み出すような産業育成がうまくいっていないのだ。
■土地バブル、ゴーストタウン問題の元凶
中国経済の急成長を作りだし、その結果土地バブル経済を引き起こしたカラクリの一端が垣間見えただろう。
すなわち中国は
★.「世界の工場」として多くの生産業、工業が発展に伴い多くの外資を誘致したことが成長に繋がったことは言うまでもない
が、そのような発展だけでなく、
★.国有地の使用権譲渡による
現金収入の急増という「打ち出の小槌」
も中国の高度成長の大きな要因であったこと
が分かるだろう。
地方の各政府が勝手に自分の行政区域内の国有地を地元企業などに売却し、その資金を都市計画やインフラ建設の財源に充てられた。
そして政府の財政収入そのものとして頼られるようになっていった。
地方自治体が国有地を売却したり、土地ころがしを行って財政収入に充てる事など日本では考え難いことだろう。
持続可能な形の産業育成を目指すよりも、
★.土地使用権譲渡というようなマネーゲームに走ってしまった事が中国の高度成長における悲劇
であり、今日、そして将来にわたり深刻な禍根を残すことになってしまった。
投資による短期のリターンを狙ったマンション群はこうした土地の上に建てられた
ものだ。
マンションが建築されて売却されればまだましであるが、少なからぬ規模のマンション群が建設半ばで放置され、ゴーストタウン化したのも地方政府による無計画な土地使用権譲渡があったためだろう。
おまけにこのプロセスでは政府の財政収入にさえならならず、汚職官僚個人の懐に入った金額も小さくなさそうだ。
都市開発の掛け声空しく、ゴーストタウンが増え続け、建設後のマンションでさえも質が保証されているとは限らない。
庶民のマイホームの夢が儚く粉砕されたケースは後を絶たない。
土地使用権譲渡を通じた地方政府の「打ち出の小槌」による財政収入確保というスキームは根本的に破綻をきたしている。
「虎退治、ハエ叩き」と汚職官僚の摘発を進めているが、土地が莫大な富を生み出し、その利権にあらゆる人や部門がたかる仕組みが存在する以上、汚職の一掃は極めて難しい。
しかし、価格が上がり続ける土地「神話」は既に崩壊し、夢から覚める時を迎えている。
「中国の夢」と浮かれず、土地ころがしのマネーゲームによる資金調達を目指すことは改め、堅実に都市開発、産業育成に勤しんで欲しいものだ。
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レコードチャイナ 配信日時:2014年12月27日 6時39分
http://www.recordchina.co.jp/a99706.html
中国が不動産バブルを輸出?
不動産頼みの経済成長で、かつての日本と同じ道を進むのか―中国メディア
2014年12月25日、中国紙・参考消息(電子版)によると、今年9月までに中国の投資家が米国で購入した商業用不動産の総額は27億6000万ドルで、年間では2013年の32億ドルを突破する可能性がある。
今年10月、1945年の『Week-End at the Waldorf』という名作映画で有名になったマンハッタンの高級ホテル「ウォルドーフ・アストリア」が、19億5000万ドルで中国の安邦保険に買収された。
これと似たことが1989年に起こった。三菱地所によるロックフェラーセンターの買収劇だ。
1984年から1990年までに、日本人がニューヨーク州で所有する土地の資産価格総額は8億ドルから100億ドルにまで跳ね上がり、そのほとんどがニューヨーク市に集中していた。
今回の買収は、中国国内の不動産バブルが海外に「輸出」された例の一つだと報じられている。
経済の成長の鈍化に伴い、
企業は利益率の高い不動産を求めて海外へと目を向けるようになり、
米国、英国、香港、シンガポール、オーストラリアなどの高級物件が主な投資対象となっている。
政府もこの動きを奨励しているようで、
負債を多く抱える投資家が海外で収益を上げることで国内での返済に回せるよう後押ししている。
だが、中国国内の不動産価格の下落が続けば、
海外の不動産を投げ売りするという、かつての日本人のやり方を踏襲することになるかもしれない。
そうなれば、中国の投資家によってつり上がっていた海外の不動産価格も低くなってくるだろう。
中国人投資家の撤退によって、香港やシンガポールの市場には大きな影響がもたらされる。
近年、これらの地域では不動産価格が急上昇していたが、中国経済の減速や世界的な金利の上昇によって、シンガポール、香港、フィリピン、韓国、タイ、ベトナムの不動産価格は下落に転じている。
アジアのように不動産業に大きく依存する地域の見通しは明るくない。
野村の試算によると、不動産価格が5%下落すれば、アジアの経済成長は1.3%減少するという。
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