2014年12月11日木曜日

ウォール・ストリート・ジャーナル日本版創刊5週年記念特集

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●AFP/Getty Images


WSJ日本版5周年 2014 年 12 月 10 日 17:24 JST 更新
http://jp.wsj.com/articles/SB11940430595972624884104580314332261258798?mod=%E5%9B%BD%E5%86%85_newsreel_2

ウォール・ストリート・ジャーナル日本版が2009年12月15日に創刊してからとうとう5周年。
 WSJ東京支局による、日本のこれからの5年間を見通す識者への特別インタビューシリーズや、日本版がこれまでお伝えしてきた5年間の主要なニュースを振り返るスライドショーなどを特集にまとめました。

■アベノミクスのジレンマ―破壊的再生か安楽な衰退か



 2009年の終わりに私が日本に越してくる以前、日本が「景気後退」、「停滞」、「不振」といった不吉な言葉で表現されるのをよく目にしていた。
 ところが、引っ越しを終えて落ち着くと、私にとってより適切だと思われたのは英語の「comfort」に意味が近く、便利、信頼性、安全性、魅力など幅広い美徳が表せる「快適」という言葉だった。

<特別インタビュー>

★:日本は期待した方向に前進=アダム・ポーゼン氏
 米国のピーターソン国際経済研究所の所長であるアダム・ポーゼン氏は20年にわたって日本経済を注視してきた。
 過去5年で日本について驚いたことなどを聞いた。

★:日本は5年後も日本のまま=ジェラルド・カーティス氏
 日本の政治を専門とする米コロンビア大学のジェラルド・カーティス教授はWSJとのインタビューで、過去5年の日本の政治で最も記憶に残るのは、民主党政権が信頼できる与党としての地位を確立できなかったことと安倍氏が首相に返り咲いたことだと話した。

★:日中・日韓関係、慎重だが楽観的=シーラ・スミス氏
 外交問題評議会のシーラ・A・スミス上級研究員はWSJとのインタビューで、過去5年間の中国および韓国との日本の関係悪化を予想外だったと振り返り、今後数年間については慎重ながら楽観的な見方を示した。

★:オリンピックまでに飲食店の全禁煙化を=ノハラ・シンジ氏
 「東京フィクサー」としても知られるノハラ・シンジさんが誰なのかを人に説明するとき、記者はまず、彼の仕事ほど素晴らしい仕事はないと話す。
 なぜ東京に新婚旅行に来る外国人が多いのか、どうして次の肉ブームの主役が短角牛になるかもしれないのかなど、話を聞いた。


<5周年イベント>
★:財政再建に強い懸念=エコノミスト対談
 WSJ日本版の創刊5周年を記念して4日に開催されたイベントで、早稲田大学の原田泰教授と富士通総研経済研究所の早川英男エグゼクティブ・フェローの対談は、アベノミクスの評価で口火を切ったが財政再建に大半の時間を費やし、両氏の財政に対する強い懸念が示された。


<スライドショー>
★:WSJ日本版が伝えた世界のニュース 2009~2014
http://jp.wsj.com/news/articles/SB11360550936975084497104580306773593557214

 「アラブの春」からマレーシア航空機消息不明まで、WSJ日本版がこれまでの5年間で報じた世界の主要ニュースをスライドショーでふり返る。




ウォールストリートジャーナル 2014 年 12 月 4 日 11:02 JST
http://jp.wsj.com/news/articles/SB11920364258490754648804580314053406848366

【特別企画】日本は期待した方向に前進=アダム・ポーゼン氏

 ワシントンにあるピーターソン国際経済研究所の所長であるアダム・ポーゼン氏は20年にわたって日本経済を注視してきた。
 イングランド銀行(英中央銀行)の金融政策委員会(MPC)元委員でもある同氏は長年、日本経済を停滞状態から脱却させるためにより大胆な措置を講じることを日本銀行に求めてきた。
 それが黒田東彦日銀総裁の下で実施されたことは「とても喜ばしい」と話す。
 ポーゼン氏は日米貿易拡大の強力な支持者でもあり、提案されている環太平洋経済連携協定(TPP)は日本の消費者にとってかなりの追い風になると主張する。
 今回のインタビューで同氏は、過去5年間で驚いたこと、向こう5年間に日本が正しい方向に進むために必要なことについて語った。
 以下はインタビューの抜粋。

■――過去5年間であなたが驚いたことは何か。
 ウォール・ストリート・ジャーナル日本版が発足した2009年当時のあなたが予想していなかった方向に進んだこととは何か

 物事は私が望んでいたが、半ばあきらめていた方向に進んだ。
 黒田総裁の指揮の下、日銀は明らかに中銀運営の主流に戻った。
 デフレに対処し、ハイパーインフレを引き起こすことなく自分の使命に対応できる、購入するものを変更し、その発表を的確に行うということが前提となっている。
 すべては予想できたことで、われわれが待ち望んでいたことだが、その実現には真のリーダーシップと変革が必要だった。
 白川(方明=まさあき)前総裁下の日銀のリーダーシップと、その任期の最後の数年間に実施された金融政策が中途半端だっただけに、それはとても喜ばしいことだった。

 二つ目は、より一般的なことになるが、十数年前の小泉純一郎首相がそうであったように、
 日本では選挙に勝つだけで何らかの変化をもたらすことが可能だということが明らかになった
 日本の無行動は運命付けられていたわけではない。
 何かが起きるためには、根本的な憲法改正や行政上の変更が必要というわけではなかった。

 私にとって驚き――もちろん、良い意味でだが――だったのは、日米同盟の再強化の度合いである。
 そして、さほど嬉しくない驚きは、安全保障協力の方が経済協力よりもずっと先に進んでいるということだ。
 TPPやその他の経済連携への取り組みが安全保障上の連携に追いつくことを期待したい。

 米国議会や自動車産業が盛んな北部の州には依然として日本に不信感を抱いている人もいるが、
 米国議員の大多数は日本が概ね経済ルールを守っていること、
 経済的に力強い日本は米国の利益にもなるということに気付いている。
 したがって残っている
 日米共通の関心事は、中国に責任ある行動を取らせること
である。

■――2020年の東京オリンピックまでの5、6年を見通した場合、日本でうまく行きそうなこと、行かなそうなことは何か

 現在の日本に関して良いことの一つは、少なくとも経済的観点からすると、15~20年先の未来が、かつてなかったほど本当に不透明だということだと思う。
 女性の労働参加が前進し続け、安倍晋三首相がTPPを締結するのに必要な農業改革を実施し、米国からの天然ガス輸入を増やし、原発が再稼働されれば、非常に力強い回復と人々が考えている以上に高い持続可能な成長率を示す日本になるかもしれない。

 しかし、財政再建策を1つでも先延ばしにすると、向こう2年間に比べて、その後の3~4年間はかなり落ち込むだろう。
 すべては政策次第なのだ。
 労働力人口に占める女性の割合を増やせば、十分に大きな違いをもたらし、人口減少を相殺できる。
 日銀によるデフレとの戦いは、最終的には成功し、日本経済を助けるだろう。
 だが、この両者が組み合わされば、インフレ率が上昇し始め、短期的には国債の発行を助けるが、数年後にはその利子を支払うのが難しくなるだろう。

■――女性の労働力参加に関して注目すべき兆候は何か

 女性の労働力参加に関して、この18カ月間の成長ペースは非常に速かったので、それが維持できるかはわからない。
 その約半分ぐらいのペース、年間約20万人という趨勢増加率であれば確実に維持が可能であり、安倍政権――今のところ、これがその最大の功績だと私は考えている――は変化をもたらすことができるということを示してきた。
 差別是正措置に目標を設け、企業に圧力をかけ、教育や育児のための資金を出すなど、できることはある。
 この他にもまだあるはずだ。

 安倍首相が主導した女性の労働参加という政策への反応によって、日本の政治や経済政策を悩まし続けてきた人口動態に基づく決定論は見当違いだということが再び示された。
 これはまたしても、私が他の数十人の人々と共に理論上で望み、20年間支持してきたことだが、それが実際に起きるのを目にするのは素晴らしいことだ。

■――3本目の矢の改革で他に注目しているのは何か。
 農業はどうか

 今回の解散総選挙の話が出たとき、私が期待したのは、それが農業改革の断行に向けて政治的に身構えるためでもあるということだ。
 理論上、それが日本国民にとって有益だということは誰もが知っている。
 私が概算したところ、TPPの締結に必要な農業の自由化が行われれば、豚肉と牛肉が大幅に自由化され、それや米を除くその他の食品の関税がゼロではなく1ケタ台に下がれば、食品価格が値下がりし、日本の世帯当たり実所得は1.5~2%増加することになる。
 政府が国民の実所得を引き上げようとしている今、これは非常に大きな影響を及ぼすだろう。

■――あなたが注目している構造的分野は他にもあるか

 大企業の経営陣が莫大な手元資金を抱えながら、投資も、株主への還元もせずにいられるというのは、コーポレート・ガバナンスが基本的に機能していないということだ。
 そうした資金はそのように停滞したり、今の経営陣の支配下にあるべきではない。
 したがって、日本でも他の先進国のように、乗っ取りに関する法律、会計制度、外部取締役の議決権のどれかを変更するなどし、外部からの圧力を受けにくい経営陣が手元資金を遊ばせないようにするということは重要な問題になるだろう。

(聞き手はPeter Landers)

アダム・ポーゼン::
 ピーターソン国際経済研究所所長。専門とするマクロ経済政策、金融危機対策、日米欧経済、中央銀行問題の分野では世界の第一人者のひとり。
 ハーバード大学で学士号と博士号を取得。
 米外交問題評議会、日米欧三極委員会、世界経済フォーラムのファカルティ(学識経験者)のメンバー。
 2009年9月から3年間、イングランド銀行(英中央銀行)金融政策委員を務めた。

(この記事はウォール・ストリート・ジャーナル日本版の創刊5周年を記念した特別企画の1本です)



ウォールストリートジャーナル 2014 年 12 月 5 日 11:21 JST
http://jp.wsj.com/news/articles/SB12598258265585683745604580317570476296194

【特別企画】日本は5年後も日本のまま=ジェラルド・カーティス氏


●海外からの観光客でにぎわう東京・浅草寺(13年8月6日) AP

 日本の政治を専門とする米コロンビア大学のジェラルド・カーティス教授はウォール・ストリート・ジャーナルとのインタビューで、過去5年の日本の政治で最も記憶に残るのは、民主党が政権を担っていた期間に信頼できる与党としての地位を確立できなかったことと安倍晋三氏が首相に返り咲いたことだと話した。日本の将来については、繁栄と礼節を維持しながらなんとか切り抜けて行くとみている。

■――過去5年の日本の政治で最も印象深かったことは?

 2つある。1つは政権与党時の民主党の素人くささと無能さ。もう1つは安倍晋三氏の首相復帰だ。

 民主党は自民党に代わる信頼できる与党になれるチャンスをあまりにも速く、決定的にふいにしてしまった。

 民主党の指導者は官僚との協力の仕方が全く分かっておらず、官僚と戦わなければならないと考えた。これではどの国でもうまく行かないだろうが、意思決定に官僚がかかわってきた伝統が根強い日本ではなおさらだ。ドアに鍵をかけ、「われわれが決断するまで待って、それから言う通りにしなさい」と言っても駄目だ。

 民主党は外交もまずかった。鳩山由紀夫首相(当時)の思慮を欠いた行動で大きくつまずき、野田佳彦首相(同)による尖閣諸島国有化の決定で日中関係に大きな危機を招いた。自民党が政権に就いていれば、石原慎太郎氏のはったりを見抜き、野田氏のように過剰反応しなかったはずだ。民主党は石原氏の思うつぼにはまった。

 安倍氏は首相に返り咲いたとき、まるで別人のようだった。経済に全力を注ぐようになり、賢明なブランディング戦略を策定した。アベノミクスや3本の矢などだ。

 彼は最短で最大の効果を発揮できるものに注力した。デフレ脱却に向けた金融政策の大胆な活用だ。日銀法を改正すると脅して日銀が自分の意向に沿うようにした。さらに、自分と同様に積極的な金融緩和を支持する人物を日銀の新総裁に起用した。

 日本の戦争の歴史をめぐる安倍氏の修正主義的な姿勢は、日中・日韓関係をさらに悪化させた。しかし首相就任から2年がたとうとする今、安倍氏は歴史問題について発言することにはるかに慎重になっている。ここ数カ月は中国の習近平国家主席との会談実現に向けて熱心に努め、実現させた。

■――今後5年以降の主要な政治課題は何か

 日中関係が主要課題の1つになるのは間違いない。今後5、6年だけでなく、今後数十年についてもだ。

 中国はより大きく、強くなる。日本経済も成長していくが、ゆっくりとしたペースにとどまり、人口は縮小する。現在、中国の人口は日本の約10倍だが、2050 年には中国の16億人に対し日本は9500万人、中国の国内総生産(GDP)は日本の数倍になっていると予測されている。

 日本の方が中国よりも生活水準が高く、格差も少ない状況は何年も続くだろう。日本は依然として中国が手に入れたいと思う優れた技術を持ち続ける。日本経済の中国への依存度は――中国からの観光客や投資を通じ、また日本製品の巨大な消費者市場として――高まっているだろう。

 日中は互いに深く依存する運命にある。問題は、両国が経済関係を深めつつ戦略的競合に対応できるか、自国の経済的繁栄や地域の平和と安定を損なうような対立を避けられるかどうかだ。

■――2020年の東京五輪開催時に政権に就いているのは誰か

 政治ではどんなことでも起こり得るが、安倍氏が(自民党党首として)2期、つまり首相として6年務める可能性が非常に高い。となると18年までだ。

 野党が近い将来再編し、自民党に代わる信頼できる政策を示すとは想像しがたい。自民党が本当の意味で脅かされるようになるまでには時間がかかるだろう。

 自民党が以前に政権を失ったのは党内分裂が原因だった。次に政権を失うときも恐らくそうだろう。しかし、今のところ党内に(現執行部に対する)強い不満の兆しは見られない。

 五輪までの準備期間は政権に就いている党にとっては非常にプラスになるはずだ。たくさんのことが起き、国民は盛り上がる。日本人のプライドを高め、国を大いに活性化させることになる。

 五輪開催時に自民党が政権に就いている可能性は非常に高い。

 野党の問題は、アベノミクスを批判する一方で、その代替として何を提示すべきかについて確固たる考えがないことだ。アベノミクスが失敗すれば、自民党は多くの有権者の支持を失い、党内も安倍氏に背を向けるだろう。ただ、野党が自民党の自滅を待つだけではなく何かしたいのなら、代わりとなる経済政策を自ら提示しなくてはならない。その日が近いことを示す兆しはない。

 日本は他の多くの民主国家と同様、深刻な政治的リーダーシップ不足に直面している。40歳以上の政治家の中で「この人が首相だったらいいのに」と国民に思わせるような人を見つけることは不可能だ。

■――安倍氏にとっての今後のリスクは?

安倍首相(2013年1月) AFP/Getty Images

 安倍首相にとって事態は非常に良好に見えるが、それには1つ条件がある。アベノミクスが頓挫しないことだ。

 黒田東彦・日銀総裁の政策がインフレ期待に関する人々の見方を変えられず、安倍氏が実現しようとしている構造改革があまり効果のない中途半端な措置に終わった場合、かなり厄介な事態になるだろう。

 しかし、経済が破局を迎えない限り国民が自民党に背を向けることはないだろう。国民は1年ごとに首相が入れ替わる時代には戻りたくないと考え、安倍氏を好きでない人たちでさえ安倍氏を首相に就かせておく方がましだと思っている。

■――今後5年の最良のシナリオは?

 まずデフレから脱却し、構造改革によって労働市場の流動性が高まり、起業が活発化し、質の高いコメ・果物・野菜が中国などのアジア諸国に大きな輸出市場を見いだすような状態。

 そして、女性が企業の主要な幹部職に就くようになり、人口減少の悪影響が緩和され、働く女性の子育て支援策によって人口構造がやや改善すること。

 外国人向け観光産業が主要な成長のけん引役の1つとなり、高等教育制度の抜本改革と外国人の受け入れ拡大で日本国内の国際化が進むこと。

 経済は安定的に低成長を続け、日本は高齢化と豊かな社会を両立させるモデル国家とみなされるようになる。

 日本は地域の安全保障で役割をいくらか拡大し、安保政策では専守防衛志向を維持し、米軍と密接に協力する。中国は日本が再び軍事的脅威にならないと判断し、強固な日米同盟を目の当たりにし、日米間にくさびを打とうとするのではなく両国と協力しようとする。

■――最悪のシナリオは?

 黒田総裁の政策が失敗に終わり、デフレが根強い問題として残り、構造改革は実行されず、労働、農業、その他分野での改革が不十分で政府の成長戦略に息が吹き込まれないような事態。

 債券危機、金利上昇、外国人投資家の撤退が起こり、株価は下落する。

 首相の任期が終わる18年までに安倍氏の人気が大きく落ち込み、後任者は政権基盤が弱いためにタカ派姿勢を強めて国家主義的政策で国民の支持を高めようとする可能性がある。そのため、日中関係が悪化する。米国は日本が対中姿勢を強め、米中関係とアジアでのリーダー的地位を維持するうえで問題が生じることを恐れ、日米関係に緊張が生まれる。

■――起こりそうなシナリオは?

 日本は何とかやっていく。沈没することはないが、人口問題を解決して高成長経済に転じることもない。日本は現状のままだろう。

 日本は対処可能な多くの問題を抱えた成熟経済国だ。GDPの数字はやや誤解を招きやすい。国民1人当たりで見ると、「失われた20年」中の成長もさほど悪くもない。ちょうど西欧諸国の平均と同じくらいだ。

 したがって、今後も多かれ少なかれ現状のままだろう。日本は移民社会にはならない。日本人が質の高いサービスに見いだしている価値を投げ捨ててサービス部門の生産性を引き上げることはないだろう。

 例を挙げよう。東京駅で新幹線を待っていると、清掃スタッフが全車両を掃除し、発車時刻の数分前に降りて、乗り込む乗客に対してお辞儀をする。清掃員の数を減らせることは間違いないし、列車が時間通りに出発しなくても世界が終わるわけではない。床には空のペットボトルやゴミが落ちたままになるかもしれないが、それは生産性向上の対価だ。米国人なら喜んでその対価を支払うかもしれない。われわれは抗議もせずアムトラックに乗っているのだから。しかし、日本人はそれに耐えられないだろうし、私個人としては決してそうなってほしくない。

 日本を訪れる人は日本の何に感動するのか。秩序や清潔さ、礼儀正しさ、食べ物やサービスの質。丁寧さ、夜に1人で歩いても怖くないこと、子ども1人でも地下鉄に乗せられることだ。日本社会を特徴づける生活の質は定量化することができない。もちろん、日本がその基本的な価値観で妥協することなくサービス部門の生産性を向上させるためにできることはある。だが、日本が必ず米国のようになるはずだと考える米国人は失望してきたし、今後も失望するだろう。

 豊かな国が、必ずしも米国のように見えるとは限らない。

(聞き手はGeorge Nishiyama)

ジェラルド・カーティス::
 コロンビア大学政治学教授、東京財団名誉研究員、元コロンビア大学の東アジア研究所所長。
 東京大学、慶應義塾大学、早稲田大学、政策研究大学院大学、コレージュ・ド・フランス、シンガポール大学など客員教授を歴任。
 大平正芳記念賞、中日新聞特別功労賞、国際交流基金賞、旭日重光賞を受賞。
 『政治と秋刀魚――日本と暮らして45年――』、
 『代議士の誕生』、
 『永田町政治の興亡』
など日本政治外交、日米関係、米国のアジア政策についての著書は多数。

(この記事はウォール・ストリート・ジャーナル日本版の創刊5周年を記念した特別企画の1本です)



ウォールストリートジャーナル 2014 年 12 月 8 日 11:23 JST
http://jp.wsj.com/news/articles/SB10063842500352674697504580323744110265322

【特別企画】日中・日韓関係、慎重だが楽観的=シーラ・スミス氏

 米ワシントンに本部を置くシンクタンク、外交問題評議会のシーラ・A・スミス上級研究員はウォール・ストリート・ジャーナルとのインタビューで、過去5年間の中国および韓国との日本の関係悪化を予想外だったと振り返り、今後数年間については慎重ながら楽観的な見方を示した。
 日本の外交政策専門家であるスミス氏は、
 「日本と中国が戦争を始めたがっていると考える人はいない。(しかし)これまでに人類が戦争に至った原因には誤算や偶然、誤解などもあった」
と述べた。

■――過去5年間に日本の外交問題で最も際立っていたことは?
 何に最も驚いたか、そしてその理由は?

 日本の外交目標はこれまで比較的一貫していた。
 しかし、日本の外交政策は2つの危機によって方向付けられた。
 まず、尖閣諸島をめぐる2010年と2012年の中国との対立だ。
 2010年に起きた尖閣諸島付近での海上保安庁の巡視船と中国のトロール漁船の衝突事件後に日中両国の外交上の対立が急速に悪化したことは、当事国ではないわれわれにとっても衝撃だった。
 こうした状況のなかで、中国政府によるレアアース(希土類)の対日禁輸や、日本人ビジネスマンの逮捕は国際的に幅広い注目を集めた。
 しかし、興味深かったのは、日本の政府高官が、世界中の支持を得られるような外交的機会にほとんど無関心で、それよりも国内の政治的対立にもっと焦点を絞っていたことだった。
 日本での話題はもっぱら、当時の民主党政権によるこの事件への対応ミスをめぐるもので、中国側の態度が中国政府の変化しつつある外交政策について何を示唆しているかはほとんど話題にならなかった。


●尖閣諸島 AFP/Getty Images

 2番目の危機は、2011年に起きた東日本大震災と津波、原発事故という「トリプルディザスター」で、日本の外交政策へのその影響は極めて大きかった。
 これは実際、日米同盟の試金石となる初の真の危機と言えるものだった。
 そして、日米の協力は非常に実り多い成果をもたらした。
 危機後の初期対応にとどまらず、日本の外交政策はエネルギー源の確保に向けられるとともに、中東諸国やロシアでの競争、および、米国とのエネルギー面での新たな協力の可能性に焦点が当てられた。
 また、それほどポジティブでない面としては、食品をはじめとする日本製品の放射能汚染の可能性に対する他のアジア諸国の反応も、日本の外交上の経験に影響を与えることになった。

■――東京五輪開催までの向こう5年強の間に外交面で日本はどうなると思うか

 今後5年間、日本にとって重要な問題は景気回復だ。
 力強い経済力は、日本政府にとって外交面でも大きな支えとなる。
 景気回復なしには、日本はアジアでの競争に苦戦することになる。

■――中国および韓国との緊張はどういった展開になるだろうか

 日本にとってもう一つの課題は対中国関係だ。
 緊張が持続したり、両国が違いに対処する手腕を取り戻せなかったりする場合には、日本にとっての代償は大きい。
 日中関係悪化のために、2010年に酒に酔ったトロール漁船の船長をめぐる両国の小競り合いがほんの数年で、軍事衝突が起こりかねないと世界が心配してアジア地域を見守る状況にまで発展した。
 両国からしてみると何事も主権の侵害と解釈できる状況で、両国の首脳陣が国民感情を統制し抗することは非常に難しいだろう。
 両国のお互いに対する不信感と、これほど高まった敵対意識や緊張状態に対処した経験がないことを考慮すると、意図的でなくとも死者が出れば深刻な結果となりかねない。

 しかし、中国は日本に対して強硬姿勢を取りすぎたとの結論に達しつつあるのではないかと私はみている。
 中国は、米政府との関係強化を優先し、日中関係をないがしろにしていたが、米中関係改善において日本が要因そのものになりつつあることを認識し始めている。

 同様に、韓国との外交的仲たがいによる機会費用もかさんでいる。
 しかし、今後の見通しははるかに厳しい。
 慰安婦問題や戦争賠償は、国民の不満に対する政府の配慮をめぐって韓国の国内政治と絡む問題のため、日本にとっては交渉が一段と難しい。

 しかし、来年はこうした両国との関係にとって転機となるのではないかと私は考えており、安定するかどうかは確信がないものの、新政権のもとで政治的雰囲気はよりポジティブなものになるとみられる。
 来年の戦後70周年をめぐって緊張感が一時的に高まる懸念はあるが、それ以降は、日々の実際的な現実主義が静かに復活すると考えている。

■――日米関係についてはどうか

 日米が共有する利益のために、両国関係は引き続き順調となろう。
 環太平洋経済連携協定(TPP)に関して前向きな成果が得られれば、日米両経済の経済的統合が進む。
 エネルギー関連の協力も拡大し、そのために関係が強化されるだろう。
 2020年までには、軍事態勢の近代化の大半が実現され、日米両軍の相互運用が進んで両国の同盟関係の信頼が向上しよう。

■――近隣諸国との日本の関係を良くも悪くも劇的に変えるようなことを安倍首相が行う見込みは?

 安倍首相が国益にそむくような行動を取る可能性が高いとは思わない。
 とは言え、東シナ海にアジア各国の軍事力がますます密集するなか、軍事バランスへの対応について私はより懸念している。
 リスク軽減のためのメカニズムを構築する方向で真剣に努力しなければ、日中間の緊張が高まるだろう。

■――日本の外交問題について最も大きな疑問は? 
 5年後の日本にとってのあなたの描く最善のシナリオと最悪のシナリオは?

 日本の将来の安全保障をめぐる議論が、国家戦略に焦点を当てられるかどうかは判断しかねている。
 例えば、現在日韓関係をめぐる議論の原動力となっている感情は、戦略的な国益とはほとんど関係ない。
 危機が発生すれば、自衛隊や同盟国の即応能力に加え、安全保障の議論について国民の懐疑心が高まるだろう。

 北東アジアで現在見られている国家主義の後ろ向きな性質が、日本と近隣諸国の将来について私が抱く最大の懸念と言えよう。
 戦略地政学上の重大な変化にさらされているときに、各国の戦後体制が再考されている。
 そこには国家としてのアイデンティティーや野心などが複雑に絡んでいる。
 米国もアジア地域で当時は大きな役割を果たしており、決して部外者ではない。
 しかし、今の米国の当局者たちはこうした歴史問題の渦中に入る覚悟ができていない。
 結果、アジア太平洋地域の諸国は「どっちの味方だ?」と米国に尋ねている。

 最も明るいシナリオは、日本の政治家たちが日本経済の転換に労力を集中することのように私には思われる。
 日本の人口動態の傾向を考慮すると、将来の勤労世代が高齢化社会の負担を担うとすれば、より大きな支援が必要となる。
 米国との同盟に基づくしっかりした協力関係によって日本の安全保障は確実になるが、中国とのバランスを取ることもますます難しい課題になる。
 日本政府は戦略的選択において冷静かつ慎重である必要がある。
 そして、共通かつ共有された国益に基づき協力体制を築くことに注力すれば、外交上の成功の可能性は高い。

(聞き手はToko Sekiguchi)

シーラ・スミス::

 米外交問題評議会上席研究員。専門は日本の政治と外交政策。コロンビア大学で修士号と博士号を取得。米国社会科学研究評議会、ボストン大学国際関係学部准教授、米ハワイ州にある東西センター研究員などを経て現職。安倍フェローシップの助成を受け、慶應義塾大学で中国や北東アジアに対する日本の外交政策を研究。日本国際問題研究所、財団法人平和安全保障研究所、東京大学、琉球大学で研究員を務めた。

(この記事はウォール・ストリート・ジャーナル日本版の創刊5周年を記念した特別企画の1本です)





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