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WEDGE Infinity 日本をもっと、考える 2014年10月14日(Tue) 富坂 聰 (ジャーナリスト)
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/4308?page=1
官僚の“不作為”が中国経済の失速を招くか
第2のゴールデンウィークと呼ばれる国慶節の休み。10月1日から7日までの間には、延べ4億8000万人が旅行に出ると予想され、移動の人数は前年同期に比べて13%も増加した。
■高額商品は海外で買いたい
相変わらずの盛況ぶりだが、今年はその旅行の中身に変化が起きていた。
「実は、国内旅行が低調だったのです」
と語るのは、上海の旅行業界の関係者だ。
「中国国内の観光地として有名な、例えば世界遺産でもある四川省の九寨溝は、
昨年に比べ約40%も観光客数が減り、
黄山など中国の五大山でも約30%減と落ち込みました。
これにつれ各観光施設の入場料収入も対前年比で4.75%減になっています。
つまり、ここから分かるのは、中国人の旅行は、いまや国内ではなく、海外に行って楽しむ傾向が顕著になったということです」
金持ちになれば外に目が向くのも自然なことだが、問題はここに国内をあえて避ける現象が見られることだ。
「休日に空気のきれいな海外に行きたいという旅行者の傾向は、国内で海南島が人気であることかも察せられますが、理由はそれだけではありません。
中国は海外で高級ブランドを買い漁る旅行者の消費行動に、資産流出を警戒し始め、海南島の三亜に巨大なモールを建設していますが、いま一つ振るわないのが現実です。
やはり高額商品は海外で買いたいというのが本音なのでしょうね」
海外でより旺盛な消費を見せるといった傾向は、この国慶節でさらに定着したようなのである。
■「ぜい沢禁止令」の弊害
9月30日付『経済参考報』は
〈2013年の統計によれば、ぜいたく品を買っている人々の約73%が海外で消費し、その数字は対前年比で8%の増加だという。
これはつまり20%の中国人しか国内でぜいたく品を買っていないということだ〉
と懸念を伝えている。
中国経済の未来については国際機関の多くが失速しても底堅いという評価を与えているが、その条件として地方債務問題と不動産問題のソフトランディングを指摘している。
加えて経済の構造転換の必要性が強調されるのだが、そのためにカギとなるのが消費である。
その中国経済にとって、いま何よりも栄養となる消費が国内を離れ海外に比重を移しているとなれば深刻である。
いったいなぜなのだろうか。
国務院のOBが解説する。
「それは習近平国家主席の進めた
『ぜい沢禁止令』(八項規定 六項禁令)の影響
です。
公務員でなければ関係ないとはいえ、ブランド品を遠慮なく買うことのできる人といえば公共事業で潤っている中国の現状を考えれば大なり小なり国と関係がある人でしょうし、そうでなくてもいまや国内でぜいたく品を買って目立つことのリスクは高まっています。
どうせなら海外で心置きなく買い物を楽しみたいというのが本音でしょう」
高額消費をする人々が国内から海外に逃げ出してしまったのは、現代の“整風運動”と評される規律引締めの望まれない副作用といえるのだろう。
そもそも反腐敗キャンペーンもぜい沢禁止令も狙いは格差から生じる人々の不満を警戒したものだ。
経済にダメージがあるとはいえ、急激に二つの手綱を緩めるわけにはいかない事情もある。
共産党にとってまさにディレンマともいうべき試練が横たわっていたというわけだ。
■「史上最強の特務機関」による厳しい取締り
だが、実は反腐敗キャンペーンとぜい沢禁止令による副作用の問題はこればかりではない。
怒れる大衆を意識して引き締めを強め過ぎた結果として、
特権を奪われてしまった巨大な利権組織に属する官僚たちの「静かな反攻」
が始まっているからだ。
反腐敗には政争の要素もあれば、官僚のモラル改善という意味もある。
その使命を担う一つの組織こそ中紀委の下に設けられている中央巡視隊(組)だ。
中央巡視隊が設立されたのはもう10年前になるが、休眠状態にあったこの組織を活性させたのが習政権だった。
「中央巡視隊はいま、習近平の出した『倹約令』に従い、ものすごい勢いで官僚を取り締まっています。
最近は、大きな都市を結ぶ高速道路の出口で張っていて、黒塗りの公用車が通ると、それらを片っ端から停めてトランクの中を改めるというやり方が続いていたようです。
彼らが強制的に開けさせたトランクには、たいてい高級酒や土産物が大量に見つかります。
その品物が誰かから贈られたものか、または誰かに贈ろうとしているのか、いずれにせよ倹約令に違反するものでしょうから、彼らの追求を逃れることはできなくなります。
官僚たちはいま、こうした中央巡視隊のことを陰で
〝現代の東廠〟
と呼び、蔑みながらも恐れているのです」
「東廠」とは明代に存在した皇帝直属の特務機関のことで、史上初めて生まれた特務機関ともいわれる。
なかでも東廠が有名なのは、与えられていた権限の大きさから、
「史上最強の特務機関」
として知られている。
■官僚の“不作為”で80年代に逆戻り?
だが、官僚側も東廠を恐れているばかりではない。
「静かな抵抗はもう始まっている」と語るのは党中央の関係者だ。
「いま中央政府に持ち上がった新たな悩みは官僚の“不作為”です。
「不作為とは何もしないこと」ですが、いまの官僚の生活をたとえるならば、
『賄賂も贈り物も受け取らない。
高級酒も飲まない。
宴会もしない。
公用車も使わないし
海外視察にも行かない。
しかし、仕事もしない』
というものです。
反腐敗キャンペーンに続くぜい沢禁止令で役人の楽しみが奪われ、それがいよいよ本気だと分かった段階から役人たちの側にもそれへの抵抗としてサボタージュが起きているのです。
みな、政治学習の名前を借りて一日中『人民日報』を読むふりをしながら新聞に隠して小説を読んでいます。
そして早々に帰宅しますから社会の生産効率が上がるはずはありません。
これは、とくに地方で顕著になっている現象ですが、
中央で頭を痛めているのが経済をあずかる李克強首相なのです」
まるで80年代の中国に逆戻りしたかのようなやる気のない官僚気質。
当然、中央政府はこの現象の広がりを放置するはずはない。
「今年6月初旬、国務院は督査隊(組)を16の省・市及び27の機関に対し派遣しています。
結果はすべて李首相に報告され、それを受けて国務院常務会議を開きました。
この席上、李首相は一部の役人たちの間に見られるサボタージュを“新たな腐敗”と位置付けて強く批判しました。
一説には机を強く叩く場面も見られたといいますから、よほど怒っていたのでしょう。
会議では、李首相の
『事を話し合い、策を決めても、それを実行しないのであれば効果があるはずがない』
という発言もあったとされます。
危機感は強いはずです」(同前)
中央巡視隊を派遣してモラルを取り締まらなければならないだけでなく、督査隊を送って面従腹背とも戦わなければならないとは驚きである。
そして、この現象が中国経済に与える影響は実に深刻だ。
もし“不作為”が全国で蔓延すれば、中央が発動するどんな経済政策も途中で骨抜きにされかねない。
そんなやっかいな体質を内部にかかえてしまった
とすればマクロコントロールは不自由になる。
■中国経済のさらなる失速要因となるか
あるファンドの関係者は、経済への影響はすでに深刻な現象として出てきていると指摘する。
「実際のプロジェクトで停滞してきているものが目立つようになってきています。
とくにクリーンエネルギー分野で、それが顕著で、風力発電などはたくさんのプロジェクトが開店休業状態です。
こうした問題が広がれば、中国経済にとっては大きなダメージになるでしょうね」
今年7月に発表された4月-6月期のGDPの成長率が7.5%を上回り、中国経済は停滞を脱したと多くの新聞が報じだが、これは鉄道関連事業など公共事業を行うことで実現されたものである。
中国経済にとって大きな太い柱である投資で数字をコントロールすることの有用性は明らかだが、もし不作為という現象が蔓延すれば、中央という脳の発した信号を手足が実行しないという事態にも陥りかねない。
そうすれば政策の効果も期待できないのだ。
“不作為”が中国経済失速のさらなる要因になるのか、見極めが必要だろう。
』
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サーチナニュース 2014-10-16 15:53
http://news.searchina.net/id/1546107?page=1
巨額投じた施設がすぐに撤去
・・・無能な指導者「無責任OK体質」を中国・新華社が批判
中国国営通信社の新華社が運営するニュースサイト「新華網」は14日、
「短命建築がたびたび、浪費しているのはだれが汗水たらして稼いだ金だ」
と題する批判論説を掲載した。
中国各地で巨額を投じて作られて施設がすぐに撤去される現象を改めて指摘し、原因になっているのは自分の考えや都合で無定見に事業を進める各地の指導者の無責任を許す体質と論じた。
記事はまず、広州市〓湾区で2009年に始まった、陳家祠周辺の整備計画を挙げた。
陳家祠とは、清朝光緒帝の時代(1888年代)に、広東省各地に分かれて暮らしていた「陳氏一族」が先祖を礼拝するために築いた建物だ。
8億元(約138億5000万円)の資金を投じ、陳家祠周辺の建物を撤去して、歴史的な風情を生かした公園地帯とした。(〓は草冠の下に「劦」)
しかし、地下鉄路線の延長にともない、整備された建物は改めて「再開発」されることになった。
新たな建物は取り壊され、すでに更地になった。
12010年9月に完成してから、4年もたたないうちに取り壊された。
記事は、地下鉄延長計画は2007年6月には許可を得ていたとして、杜撰(ずさん)な開発計画を批判した。
記事はさらに、同様のケースは全国各地にあると指摘。
大型ホテル、競技場などが、10年から20年で撤去されるケースが相次いでいる。
念入りに設計して、技術的には「100年は大丈夫」とされた建築物が15年後に爆破撤去され、その後に、ほとんど変わらない建物が建築された例もあるという。
記事は問題点として、「総合デザイナー」である地域の政治指導者の問題を挙げた。
新たな指導者が誕生すると、それまでの計画を白紙に戻し「自分の好み」にあった計画を導入する。
地方政府としての財政などの制約も気にせず、プロジェクトにより「その場の業績」を上げることだけを考える。
周囲の官僚も、新たな指導者の顔色ばかりをうかがうので、反対意見が出るのはまれという。
結局は政府という組織や地域そのものが、損失をこうむることになる。
記事は専門家の意見として「都市計画は持続性が大切だ。
少なくとも15年間、あるいはそれ以上の年数に渡る計画案を決め、厳格に実行せねばならない」と指摘。
地方の指導者の無策、無能、無責任者によって、地方を発展させる地方政府の本来の職責が果たされていない様子を紹介した。
また、本文には直接書かなかったが、「浪費しているのはだれが汗水たらして稼いだ金だ」との見出しで、
「住民らが苦労して働いた成果を税などとして吸い上げて、それを無駄遣いしている」と、
「本当に損をさせられているのは地域コミュニティーのメンバーだ」
との主張を込めてみせた。
**********
◆解説◆
中国では、省、市、県など地方政府のトップやそれに準じる立場の人は、共産党の上部から業績を厳しく査定される。
そのため、「選挙に当選すれば、あとはそれなり」といった風潮も出かねない日本よりも緊張感が大きいが、問題は「上部に向けての業績アピール」を最優先する風潮とされる。
そのため、自分の担当範囲の現状をわきまえず、「その場の数字」だけを整える場合が多いとされる。
地方政府のトップは他地域から異動し、業績を認められれば栄転する場合が多い。
地方政府の幹部職員は、「今のボスの顔色」をうかがうことになりがちだ。
そのため、地域にとって「本質的によくない状況」が進行しやすいことになる。
これまでは、地方政府のトップなどが他地域に異動してしまえば、前任地における責任問題は不問にされることが多かった。
ただし、習近平政権は「前任における責任を追及する方針」を強めている。
腐敗問題で、中国共産党中央政治局常務委員会の周栄康前常務委員や、中央軍事委員会の徐才厚前副主席の責任が問われたのは、「転任したり引退しても、問うべき責任は問う」との、習近平政権の意思表明ともみられている。
中国の組織は政府にしろ企業にしろ、「トップダウン」の傾向が強いとされる。
トップに立つ者に能力があり、組織全体のために良心的に尽力しているとみなされれば、下で働く者は真剣に努力し力を発揮するとされる。
逆にトップが能力を疑われると、「下の者」が動揺し、組織の活力が失われやすいとされる。
「トップ」に立つ者はあらゆる面で周囲からの「評価の対象」になる。
毛沢東やトウ小平が晩年になってから長江で泳ぐ姿を公開したのも「体力面でも全く問題なし」とアピールするためだったとされる。
』
さらにやる気を失わせる「終身責任制度」が導入される。
過去の失敗も検査の対象になるという共産社会特有の制度の復活である。
この導入によって、
忘れ去られたささやかなミスが後年にほじくり出されて失脚の緒に
ということになる。
身を守るなら、官僚は何もしないほうがいい。
うまく銭を握ったら、やはり海外逃亡が賢い選択になる。
『
サーチナニュース 2014-10-24 11:03
http://news.searchina.net/id/1546899?page=1
政府要人の「後は野となれ山となれ」体質に歯止めかかるか
・・・「終身責任制」導入へ=中国
中国共産党は23日、地方政府を含めた政府機関の重大決定について「終身責任追及制度」を導入すると発表した。
これまでは地方の首長などが「自分の立身出世」のための決定をして、地元や地方政府に大きな負担を残したまま異動してしまうことが多かった。
新たな制度が導入されれば、腐敗行為なども
過去にさかのぼって責任を追及
する事例が増える可能性が高い。
中国共産党が20日から23日にかけて開催した、第18期中央委員会第4回全体会議(18期四中全会)での決定事項として発表した。
法治の推進の一環として「行政期間内部で重大な政策決定をする際の合法的な審査メカニズムと、重大な政策決定についての終身責任追及制度」を設立するという。
「終身責任追及制度」の対象者については明確にされていないが、市庁、省長など、地方政府のトップや地方政府トップに準じる地位にある者を念頭に置いていることは確実だ。
**********
◆解説◆
中国では、ごく狭い範囲の地方コミュニティーのトップや委員以外に、いわゆる「普通選挙」は実施されていない。
県長や市長、省長などは、上部からの、特に共産党による評価で決められることになる。
例えば県長が市長の地位を「狙う」場合には、「業績」が評価されることが条件になる。
手っ取り早いのが大型プロジェクトの推進だ。
数字でも実物でも「成果」を誇示することができる。
その結果、中国各地で特に必要もないプロジェクトが推進されることになった。
域内総生産(GDP)の数値は上昇するが、もともと必要のなかったプロジェクトなので、リターンには乏しい。
地方政府には巨額の負債が生じる。
それを解消するために、法律では認められない「ヤミ地方債」を発行する。
中国で問題になっている「シャドー・バンキング」問題のメカニズムだ。
首長などが、財政を“健全化”しようとした場合も、大きな問題が発生している。
税収を得るために、企業誘致を行う。
中国では現在、各地方政府の環境部門が相当に大きな権限を持っており、基準を満たさない企業進出は阻止できるはずだ。
しかし、トップダウンの傾向が極めて強く、法治の感覚も乏しいので、首長の“鶴の一声”で環境部門は沈黙せざるをえなくなる。
その結果、発生するのが深刻な環境汚染だ。
最近注目されたのが、内モンゴル自治区西部のテンゲル砂漠の汚染問題だ。
地元政府が工業団地に誘致した企業が、汚水を垂れ流していたとされる。
同件では、習近平国家主席(共産党総書記)が調査や対策を支持した。
中国では「地方などで発生した個別の問題について、対策を指示するのは首相の役目」という習慣がある。
国家主席が直接、乗り出したことは、「中央の極めて強い懸念」を意味するとして注目を集めた。
中国が、行政の責任者に対する終身責任制度を制定することは、これまで「見てくれだけ、その場かぎりの業績づくり」が横行していたことをあらわす。
同時に、
「法治主義という掛け声はあったが、多くのことが“うやむや”になっていた」
ことも意味する。
腐敗問題についてはこれまで、
「大きな問題が発覚した場合にのみ、前職時に手を染めた規則違反や犯罪行為が問題にされる」
という傾向が強かった。
終身責任追及制度の導入では、(現在は特に問題を起こしていなくとも)過去の問題を調査するメカニズムも確立するとされている。
そのため、中国共産党は「無責任な政策推進」に合わせて、腐敗問題についても
過去にさかのぼって厳しく追及する
考えを示したと考えられる。
中国では、2012年秋まで共産党中央政治局常務委員だった周永康氏が2013年になり不正の疑いで取り調べの対象になったこと、同じく12年秋まで中央軍事委員会副主席だった徐才厚氏が、収賄などの疑いで14年になり訴追されることになったことで、「要職にあった人物に対する過去にさかのぼっての責任追及が強化される」との見方が出てきた。
18期四中全会の決定は、「終身」と言う表現で、責任追及について極めて厳しい姿勢を示したものと言える。
ただし、習近平主席が主導する政治改革については、「分派活動」などによる抵抗も強いとみられ、どこまで実現するかは予断を許さない状態だ。
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