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2014.09.26(金) Financial Times
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/41808
ナショナリズムの奇妙な復活
(2014年9月23日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
●9月11日、スペイン北東部カタルーニャ自治州の州都バルセロナで行われたスペインからのカタルーニャ独立を求めるデモ〔AFPBB News〕
経営コンサルタントの大前研一氏は1990年に、グローバル化の精神を捉えた『ボーダレスワールド』というタイトルの書籍を出版した。
その後ほぼ25年間にわたるビジネス、金融、技術、政治の進展は、国境と国境が守ってきた国民国家の容赦ない衰退を裏付けたように見えた。
国際情勢の会議は、世界で最も重要な問題はもはや国が単独で行動することで対処できなくなったとの発言が誰かから出ずに終了することがなかった。
インターネットの出現によって、国境はもう問題にならないという考えが強固になった。
ビットとバイトの国境なき世界では、領土、国民意識、主権などの伝統的な国家の関心事が、剣と盾のように時代錯誤なものに見えた。
しかし、国家や国境、国民意識は今や重要ではないということを、誰かが政治家と有権者に伝え忘れたようだ。
先週、スコットランド人の45%が英国から独立した国家の創設に賛成票を投じた。
この住民投票には、スペインのカタルーニャや中国のチベット、カナダのケベックなどの分離独立運動から熱い視線が注がれた。
■欧州で最も危険なナショナリストはプーチン大統領
分離独立運動は、ナショナリズム復活の一面だ。
欧州、アジア、中東では、確立した国家でさえ、ナショナリストの政治家が闊歩している。
欧州で最も危険なナショナリストはロシアのウラジーミル・プーチン大統領だ。
プーチン氏は、どこに住んでいようと関係なくロシア語を話す市民を守る権利、いや義務をも謳ってクリミアを併合した。
多くの人が不安げに指摘した通り、これは旧ソ連の領土全域に介入する口実をロシアに与える可能性がある。
欧州連合(EU)がプーチン氏に対する反対勢力をかき集めようと奮闘しているのをよそに、西欧諸国にはフランスの国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペン党首など、公然とプーチン氏を支持するナショナリストの政治家がいる。
ドイツで台頭している政治勢力は、ドイツの利益が欧州の利益の下位に置かれていると主張する「ドイツのための選択肢(AfD)」だ。
繁栄しているスウェーデンでさえ、極右のスウェーデン民主党が総選挙で13%の得票率を記録したばかりだ。
ハンガリーでは、ハンガリー市民同盟(フィデス)政権が明確な権威主義的傾向を持ち、国外にいるハンガリー人の運命に強い関心を抱いている。
アジアで最も有力な3大大国の中国、日本、インドは、カリスマ的なナショナリストの指導者が国を率いている。
中国の習近平国家主席、日本の安倍晋三首相、インドのナレンドラ・モディ首相は、国内の経済、社会改革に拍車をかける手段として国家再生という似たようなレトリックを使う。
しかし、国際的には、彼らのナショナリズムは中国と2大隣国との国境紛争という形で衝突し、戦争のリスクを高めている。
もし我々が国境なき世界に住んでいるのだとすれば、時として自国領土の境界策定に取りつかれているように見える中国人、日本人、インド人に、誰かがそれを伝え忘れたように思える。
一見すると、中東はナショナリズム復活のこのパターンの例外のように思える。
中東地域の最も危険な新勢力は、国境を軽視するジハード(聖戦)主義運動「イラク・シリアのイスラム国(ISIS)」だ。
しかし、最も人口の多いアラブ国家のエジプトはナショナリズムに傾き、軍主導の政権がイスラム主義に代わるイデオロギーを模索している。
■ナショナリズムが復活している理由
こんなに多くの経済的、技術的な力が反対方向に作用している時に、
奇妙にも世界的にナショナリズムが復活している理由は何なのか?
1つの答えは、グローバル化の予言者たちが恐らく常に、残存するナショナリズムの力を甘く見積もっていたということだ。
空港のラウンジや国際会議で時間を過ごせば、
ほとんどの人は特定の場所に根差した生活を送っているということを簡単に忘れてしまう。
実際、方向感覚が曖昧になるグローバル化の効果によって、恐らく人々は、共通の言語であれ、互いに共有する歴史であれ、より地域的もしくは国民的な物事の中に安心感と意味を探すようになる。
2008年の経済危機の後は、グローバル化と国際金融に対する疑念も大きく高まった。
貧困と戦争は、特に欧州と中東の比較的安全な地域に流れ込む難民の大量移動をもたらしている。
集団移住や難民危機ほど、国境の永続的な重要性を人に意識させるものはない。
移民に対する反発が、フランスのFNやスウェーデン民主党、英国独立党(UKIP)のようなナショナリスト政党の台頭の中核を成してきた。
最後に、そして恐らく最も危険なことに、国際秩序が新たに不安定になったという感覚がナショナリストの感情を煽っているのかもしれない。
国や分離主義の運動が、これまで眠っていた自分たちの計画を推し進める機会を見いだすからだ。
プーチン氏は過去に何度もソ連崩壊について残念そうな言葉を口にしてきたが、今では、それについて何らかの手を打つだけの強さがあると感じている。
残念なことに、ナショナリストの運動は外国人に対して自らを定義するため、隣国で対立するナショナリストの運動を引き起こすことが多い。
この現象は英国でさえ見て取ることができる。
英国では、スコットランドのナショナリズムの高まりがイングランド人の間でスコットランド人に対する一定の敵意を生んだ。
■危険度を増す日中関係
アジアでは、それよりはるかに危険な形で同じ力学が働いている。
中国では、最近の世論調査で5割以上の国民が日本との戦争を予想していることが明らかになった。
別の意識調査では、9割以上の日本人が中国に対して否定的な考えを持っていることが分かった。
今より楽観的だった時代にボーダレスワールドという概念を広めたのは、日本の思想家の大前氏だった。
それから25年にわたり、同氏の洞察は強力で先見性があるように見えた。
悲しいかな、今や、ナショナリズムが蘇った世界と次第にずれてきているように見える。
By Gideon Rachman
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WEDGE Infinity 日本をもっと、考える 2014年09月26日(Fri) 岡崎研究所
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/4238?page=1
日中の対立で選択迫られるアジア諸国?
8月21日付の英フィナンシャル・タイムズ紙で、Kurt Campbell元米国務次官補が、日中間の対立が激化し、長期化すれば、アジア諸国は、日中いずれかの選択を迫られるであろう、と述べています。
すなわち、これまでアジア太平洋諸国の多くは、米国と政治・安全保障上の関係を維持する一方で、中国と経済・通商上の関係を発展させてきた。
米国は中国の台頭を支持し、中国はアジアにおける米国の軍事的プレゼンスと指導力に反対しなかった。
既存勢力の米国と台頭する中国との間にはこのような取引があり、基本的にこれが40年以上にわたるアジア全域の先例のない前進を支えてきた。
しかし今、このような戦略的設定が米中で、そしてアジア全域で詮索されている。
米国の一部では、米国がいわゆるトゥキディデスの罠に陥り、中国が米国に代わって世界の指導的役割を果たそうとしているのではないかと懸念し、他方中国は、米国の同盟諸国と前方展開された米軍は、中国の台頭を阻止しようとしていると警戒するようになった。
皮肉なことに、アジアで政治的、経済的に成功した豪州、シンガポール、インドネシア、韓国のような国は、米国と政治、安全保障上緊密な関係にある一方で、中国と重要な経済関係を有している。
今日のアジアでの緊張にもかかわらず、中国の政治指導層も米国の政府高官も、アジア諸国に戦略的選択を呼びかけていない。
もしアジア諸国が公式に、本気で米中のどちらかを選ぶようになれば、アジアは急速に新しい冷戦になるであろう。
実際にはアジアの中級国家は米中の間でバランスを取り、米中双方と良好な関係をとるという、地域を安定させるような外交を実施している。
アジア諸国にとって近い将来の戦略的分岐点は、米中間の微妙な選択ではなく、日中間の厳しい選択であろう。
日本が戦後の自制を捨て、中国に対する不信を強め、中国の強引な政策で権利を侵害されている国との連携を強めているのに対し、中国は日本の積極的政策を阻止しようとするだろう。
現在アジア諸国は、米中の政策を比較考量する圧力は感じていないが、日中間の対立が激化し、長期化するにつれ、アジア諸国はいずれかを選択するようになるだろう、と述べています。
* * *
キャンベルは、中国が「韜光養晦」の外交姿勢を変え、米国の覇権に挑戦するようになった今でも、アジア諸国は米中双方と良好な関係を維持しようとしている、と言っていますが、国により態度は異なります。
中国との領有権争いを抱えているベトナム、フィリピンは中国と対立し、米国に接近しています。
全体としてアジア諸国が米中との関係をどう律しようとするかは、米中関係の推移によります。
米国は最近、中国に対する警戒感を高めており、米中関係の対立が厳しさを増せば、アジア諸国は米中双方と良好な関係を維持することはそれだけ困難になります。
キャンベルは、アジア諸国は米中間の選択よりは、対立が高まっている日中間の選択に迫られるだろうと述べていますが、現象的な対立は日中間であっても、戦略的な対立は中国と日米同盟です。
したがって、日中間の対立と米中関係を分けて考えることはできないのではないでしょうか。
キャンベルは、日中間の対立が激化し、長期化すれば、アジア諸国のいずれかを選択するようになるだろうと言っていますが、アジア情勢に詳しいキャンベルがこのように言っていることは、米国の識者が、日中関係の将来に危機感を持っていることを示すものと言えるでしょう。
なお、この論説は「トゥキディデスの罠」に触れていますが、これはトゥキディデスが著書「戦史」で、ペロポネソス戦争が起きたのは、アテネの台頭がスパルタの既存の地位を脅かしたためであると述べたことを指すものであり、新興台頭国が既存の覇権国を脅かす場合、戦争になる可能性があることを示唆するものです。
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サーチナニュース 2014-11-14 14:07
http://news.searchina.net/id/1549656?page=1
中国は正義の味方、カンフーパンダだ!
・・・英国・王室国防大学で劉暁明大使が講演
中国の劉暁明・駐英国大使は現地時間12日、英王室国防大学で講演して、「中国は正義を進展させるカンフーパンダである」などと主張した
劉大使は、
「現在の世界において、中国は国際システムと無関係であるわけはない。
攪乱者でなければ、破壊者でもない。
中国はもはや、眠れる獅子ではない。
陶器店に飛びこんで、(すべてを破壊する)象でもない。
ましてや、報復の機会を待つ、『雌伏の虎や龍』ではない」
と主張。
「中国は国際システムの参画者であり、建設者であり維持者である。
正義を進展させるカンフーパンダであり、平和的で愛すべき文明的な獅子である」
などと主張した。
劉大使は、
「中国が過去数十年にわたり実践に成功してきた平和発展の道にはいくつかの特徴がある」
と述べ、
「第1に、中国は好戦的ではなく、自らの勢力範囲を築かない。
第2に、中国は国際社会とのウィン・ウィンの発展を堅持している。
第3に、中国は自らの能力にふさわしい国際的責任を積極的に受け持っている。
第4に、中国は自らの主権と安全、発展の利益を堅持している」
と主張した。
劉大使は、
「(世界における)新旧の布局が転換する際に、新興大国と守成の大国の間に戦争が発生し、人類は再び『ツキジデスの罠』(解説参照)に陥ると心配する人がある。
しっかりと指摘せねばならないのは、21世紀は過去とは違うということだ。
世界はすでに、相互依存の『地球村』を形成した。
この『地球村』で、新旧の大国の関係は『ゼロサム・ゲーム』ではない。
単純に、お前が伸びればオレは沈む、お前が得をすればオレは損をする、という関係ではない。
共同で大きなパイを作り、共同で成果を享受することが必要になる」
と主張した。
劉大使は、
「中国は世界の主要パワーと、衝突せず対抗せず、相互に尊重し、強力とウィン・ウィンの、新しいタイプの大国関係を作っていきたいと望んでいる。
これは、各方面の利益に合致し、国際社会の期待に合致し、大国が世界平和と世界の発展、人類が再び同じ失敗を繰り返すことを避けるための責任を受け持つことである」
と主張した。
劉大使は、
「国際情勢の根本的な変化を受け、中国は『3つの共有』を主張する。
まず、各国と各国人民は人類の尊厳を共有する。
次に、各国と各国人民は、発展の成果を共有する。
そして、各国と各国人民は安全保障を共有するだ」
と主張した。
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◆解説◆
「ツキジデスの罠」とは、古代ギリシャの歴史家、ツキジデス(トゥーキューディデース、BC460年ごろ-同395年ごろ)による、ペロポネソス戦争(BC431-404年)の原因についての分析による。
ペロポネソス戦争は、古代ギリシャの二大都市国家のアテネとスパルタが対立し、それぞれの同盟国を巻き込んだ戦争。
古代ギリシャ版の“世界大戦”と言える。ギリシャ全体を巻き込んだ長期にわたる戦争で、ギリシャ全体が疲弊し、結果として、それまでギリシャ世界からは「文明的に、一段と劣る存在」とされていたマケドニアが興隆し、ギリシャ全土を服属させることになった。
ツキジデスはペロポネソス戦争について、
「戦争を引き起こした究極の原因は、アテネの国力興隆へのスパルタの不安である」
と論じた。
劉大使は、
「中国を、当時新興国とされたアテネに、米国などをスパルタに例え、双方の衝突や戦争が発生する恐れがある」
との見方を否定した。
劉大使の発言には、中国を「新大国」と規定し、主に米国を指すと見られる「旧大国」との間の共存共栄を説いた。
しかし、「大国」とまでは言えない国との共存について、はっきりとした言及はない。
英国における駐英国大使の公式発言である点も興味深い。
中国について「報復の機会を待つ、『雌伏の虎や龍』ではない」と論じたが、通常ならば「復讐の対象」として真っ先に思い浮かぶのは日本だ。
しかし、アヘン戦争で香港を約100年間にわたって支配した英国における発言ということで、特定の国をイメージさせる色彩は薄まった。
本国での周到な計算にもとづく、英国での発言である可能性も否定できない。
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【描けない未来:中国の苦悩】
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