2014年12月22日月曜日

「太子党対共青団派」:中国共産党の権力争い、仁義なき戦いに突入した内部抗争、解放軍のパワーバランスも

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●ANNニュース


JB Press 2014.12.22(月)  柯 隆
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42494

「媚びる」分子が組織を亡ぼす、
批判を許さない中国共産党の自縄自縛

 日本の大企業では、よくこういう現象が見受けられる。部下が上司に本当のことを報告せず、上司が聞きたいグッドニュースだけを報告する。こういう媚びる社員は往々にして上司に気に入られ、出世する。
 それに対して、耳に痛い話を上司に報告する部下は嫌われ、子会社などに左遷させられてしまう。

 「良薬は口に苦し」と言われるが、誰もが口に苦い薬を飲みたいわけではない。
 実はこれこそが、企業を凋落させる一番の理由である。

 こういった病気は日本の大企業だけでなく、中国の社会と政治においても蔓延している。
 ここ十数年来、政府を批判し民主化の政治改革を求めて建設的な意見を述べる知識人が多数拘束されている。

 今年、習近平国家主席は一部の文化人を集め、文学芸能のあり方について談話を発表した。
 その席上、水墨画家の範曾氏は習近平国家主席を「皇帝」と称える詩を発表した。
 招集された文化人たちは、政府が芸術創作に介入する問題点について誰も指摘しなかった。
 これでは中国の芸術創作はいつまで経っても政府共産党宣伝の道具のままである。

 数年前に中国で大規模な反日デモが起きたとき、若者は「愛国無罪」のプラカードを掲げた。
 それは自分たちは愛国者であると標榜するプラカードだった。

 しかし、「愛国無罪」のプラカードを掲げる若者は本当に愛国者なのだろうか。
 自分を愛国者と標榜する者たちは、自国民をたくさん雇用する日本企業を攻撃し、破壊した。
 その結果、失業した人も少なくなかった。
 どう見ても彼らは愛国者ではなく単なる暴徒であった。

目にあまる共産党幹部の横暴ぶり

 ニューヨーク在住のある中国人画家がイタリアを訪れたときの話だ。
 バスの中で若い中国人カップルに出会った。
 白人の年寄りの乗客が乗り込んでくると、そのカップルはさっと立ち上がって席を譲った。
 画家はそれを見て「彼らこそ国を愛する者だ」と感銘したという。

 一方、以前、中国共産党幹部の一団がパリを訪れたとき、大量の買い物をして、帰りの飛行機は席上のキャビネットが閉まらないほどだった。
 共産党幹部は荷物の収納をめぐって客室乗務員と大ゲンカとなり、フランス航空機から降ろされてしまった。
 中国人のイメージを地に落とした共産党幹部は、果たして愛国者と言えるのだろうか。

 また、だいぶ前、筆者が飛行機で南京から北京に行ったときのことである。
 飛行機が北京の手前で天津の空港に緊急着陸した。
 機長のアナウンスによれば、北京の上空は雷雨なので、しばらく天津空港で待機するという。
 そのとき、ファーストクラスに乗り合わせた数人の中国人乗客が機長を呼び出し、「飛行機を飛ばせ」と怒鳴った。
 機長は「航空管制からの指示で飛べません」と説明したが、彼らは怒りが収まらない。
 「だったら、ドアを開けろ。俺は降りる」と続けた。

 30分後、10台ほどの軍用車がやって来て、飛行機のそばに横付けした。
 そしてこの数人の乗客は飛行機を降りた。
 彼らが降りてから客室乗務員に聞いたところ、「南京軍区の司令官だ」という。
 筆者は「なるほど」と思ったものである。
 彼らが降りてから20分も経たないうちに飛行機が離陸したのは幸いだった。

■批判を受け入れない「愛国者」たち

 ポスト胡錦濤国家主席の座をめぐり習近平氏と競った薄煕来氏は、権力闘争に敗北し、収賄と横領の罪に問われ、無期懲役の刑が宣告された。

 彼は重慶市共産党書記の時代、自分こそが愛国者であるかのように振る舞っていた。
 しかし、実際の行いはどうだったか。
 自分に協力的でない批判的な共産党幹部や企業経営者を、正規の法的手続きを経ずに次から次へと投獄した。
 そして、自分の息子をイギリスや米国へ留学させた。
 その息子はドイツの高級スポーツカーに乗り回し、贅沢三昧の生活を送っていた。
 留学の費用はすべて自分の息のかかった企業の経営者に出させた。
 こういう共産党幹部は本当に愛国者なのだろうか。

 同じように、つい最近、共産党の党籍がはく奪され逮捕された元共産党中央委員会常務委員、いわゆる「チャイナセブン」の1人だった周永康氏も、巨額の賄賂を受け取り、多数の愛人がいたと報じられている。
 同氏は共産党の中央政治司法委員会書記であった。
 しかし、その歪んだ倫理観と乱れた生活はとても「法の番人」のものとは思えない。

 これらの共産党幹部は愛国者の仮面をかぶり、権力を利用して私腹を肥やしていた。
 専門家の見方によれば、周氏は最低でも猶予付の死刑が宣告されるだろうと言われている。

 もともと決して豊かでない農民の出身だった周氏は、共産党の厳格な愛国教育によって育った。
 それなのに、なぜここまで腐敗してしまったのだろうか。
 それは、周氏自身だけではなく共産党も反省しなければならない問題である。
 鄧小平の言葉によれば、良い制度は悪い人を良くすることができるが、悪い制度は良い人を悪くし、悪い人を悪魔にしてしまう。
 まったくその通りである。

 中国共産党が抱える深刻な問題の1つは、外部の知識人などの批判をいっさい受け入れず、多くの場合は、批判した人が政府転覆罪に問われて投獄されてしまうことである。
 逆に、政府に迎合し媚びる人間が重用されている。

 しかし、政府を転覆させるのは批判者ではない。
 迎合的で媚びる分子によって転覆させられてしまうのだ。

 ある中国人の哲学者は「知識人の責務は批判すること」だと述べた。
 日本でも有名な魯迅先生(1988~1936年)は政治に対する批判を生涯続けていた。

 むろん、批判には「分寸」(加減)を考える必要がある。
 北京大学の賀衛方教授(法律)は、政府のメンツを意識して批判しないといけないという。
 その一線を越えると、自らが危なくなるからだ。
 知識人は自己防衛することが重要である。
 歴史に「もしも」はないが、それでも仮に魯迅先生が毛沢東時代まで生き延びた場合、おそらく毛沢東と対立し、迫害を受けていたに違いない。

■媚びる分子を排除しなければ悲劇が待っている

 日本の評論家の多くは、日中関係の悪化が中国の愛国教育のせいだと指摘する。
 しかしそれは
 中国政府が進める愛国教育の効果を過大評価している。

 少し前に、共産党の地方機関紙「嘉興日報」の若い記者、王尭峰氏は中国のSNSで毛沢東を批判する書き込みをした。
 さらに、「もし中国が日本と戦争したら、私は民主主義の日本を支持する」とも書き込んだという。
 どう見ても共産党機関紙の記者が書く内容ではない。
 当然、王氏は解雇された。
 どうなるかは最初から分かっていたはずだ。
 にもかかわらず、王氏は自分の本音をSNSで吐き出した。
 共産党機関紙の記者であっても全員が愛国教育によって洗脳されているわけではないということだ。

 もう1つの例を挙げよう。
 中国社会科学院の研究者、王占陽氏は保守派との論争で、「日本が軍国主義の道を歩むことはもうない」と述べた。
 その理由として、
(1):軍国主義が戦争で敗北したから、
(2):平和主義がすでに日本人の心に入り込んでいるから、
(3):平和憲法が日本の平和の基礎を築き上げているから、
と整理している。中国の知識人のなかにはこうした良識を持つ者もいる。

 現在は共産党のなかで頭の転換ができない幹部が実権を握っている。
 だから彼らに迎合する「識者」が優勢のように見える。
 しかし、何が真理かは時間が経つにつれて明らかになるだろう。

 どんな会社や組織でも権力者に媚びる分子が存在する。
 それを排除できるかは、指導者や経営者の眼力にかかっている。
 自分に迎合する発言を好んで聞き入れる指導者であれば、その先に待っているのは悲劇しかない。



毎日新聞 2014年12月23日 01時16分(最終更新 12月23日 02時34分)
http://mainichi.jp/select/news/20141223k0000m030166000c.html

中国:「反腐敗」対象拡大か 令氏調査、個別案件指摘も

 【北京・石原聖、井出晋平】
 中国の習近平指導部による「反腐敗」は22日、胡錦濤・前国家主席の側近だった令計画氏(58)に及んだ。
 令氏には、刑事責任追及が決定された周永康・前党中央政法委員会書記(前政治局常務委員)に息子の事故のもみ消しを頼んだ疑惑があり、実兄が山西省を舞台にした汚職で調査を受けている。
 令氏に対する調査がこれらとつながる個別案件なのか、胡氏や令氏の出身母体である党のエリート養成機関・共産主義青年団(共青団)の人脈に向けられているのかが注目される。

 これまで反腐敗の対象は、周氏に代表される保守派の既得権益層で江沢民・元国家主席に連なる人物が目立ち、
 習近平国家主席と同じ高級幹部子弟「太子党」の大物や共青団出身の中央指導者は摘発されてこなかった。

 令氏の規律違反については「周氏や実兄との関連で調査の対象になったと見るのが自然」(党関係者)だ。

 一方で、習主席は周氏の党籍剥奪にこぎ着ける過程で権力基盤を確立したとの見方が支配的で、今後は反腐敗よりも党内の団結を優先するとの観測もあった。
 令氏の失脚は、改革派のイメージが強い共青団にとって大きな打撃となることは間違いない。
 2017年の党大会では共青団出身者がどこまで重要ポストを握ることができるかが焦点となっており、今回の発表を受け、
 「共青団の力をそぐ権力闘争に発展する可能性もある」(外交筋)
との指摘も出ている。

 国営新華社通信によると、令氏は今月13日に党中央統一戦線工作部長として会議を主宰したり、今月に発行された党理論誌に論文を発表したりするなど最近まで動静が伝えられていた。
 論文では習主席の演説を随所で引用しており、「忠誠を示した」(米国の中国語ニュースサイト)との見方も出ていた。
』 

 主席の習近平は太子党出身、首相の李克強は共青団出身。
 これまでこの2派は主流派であり、反主流派の江沢民系が粛清の対象になっていた。
 今回はそれが進んで、主流派内での権力闘争に踏み込む可能性が出てきた。
 貴族派の太子党と、科挙風エリート集団の共青団というトップどうしの派閥争いは、
 中国共産党がこれまで保持していた「共産党ルール」を自ら破壊してしまったために
 歯止めのルールなき戦い
になる可能性がある。


ANNニュース (12/23 05:56)
http://news.tv-asahi.co.jp/news_international/articles/000041247.html

胡錦涛前国家主席の元側近を規律違反で調査

 中国の腐敗撲滅運動で、また大物が失脚です。
 胡錦涛前国家主席の元側近・令計画氏が、規律違反で調査を受けていることが発表されました。

 党員の汚職などを調査する中央規律検査委員会は、「中国共産党・統一戦線工作部長の令計画氏が、重大な規律違反の疑いで調査を受けている」と発表しました。
 令氏の具体的な規律違反の内容は明らかになっていません。
 令氏は、共産党のエリートを養成する共産主義青年団の出身で、胡前主席の最側近と言われていました。
 共産主義青年団の出身者は、胡前主席を筆頭に大きな派閥を形成していて、その大物への異例の調査が今後、波紋を広げる可能性があります。



レコードチャイナ 配信日時:2014年12月23日 13時28分
http://www.recordchina.co.jp/a99500.html

胡錦濤前主席の側近失脚のニュースに、
中国ネットユーザーは冷静な反応「習さんはまだ権力闘争しているのか…」

  2014年12月22日、新華社は、人民政治協商会議副主席で党統一戦線部長も兼任している令計画氏について、「重大な規律違反の疑いがある」として中央規律検査委員会が調査を開始したことを伝えた。
 令計画氏は、胡錦濤前国家主席の側近として知られている。

 このニュースについて環球時報は、「中国のインターネット上は歓喜に沸いた」と伝えたが、本当のところはどうなのであろうか?
 中国の掲示板サイトに、令計画氏の失脚について討論するスレッドが立ち、さまざまなコメントが寄せられた。
 以下はその一部。

「いま政権を握っている人たちは実際にはみんなトラだよ。
 勝てば官軍ってやつさ」(トラもハエも一緒に叩くという習近平主席の反腐敗キャンペーンをやゆしている)
「トラを1匹倒した時、みんなこれで安心だと思った。
 でもまたトラを倒し、さらにまたトラを倒す
 …いったい何匹トラがいるんだよ」

「また面白い遊びが始まったな」
「自分と意見の異なる人物を排除しただけだろ」
「この反腐敗キャンペーンは権力闘争だからね。
 それにしても習さんは主席になって2年になるのに、まだ権力闘争しているのかよ」

「こんなことを続けて、誰か窮鼠(きゅうそ)猫をかむようなことにならないだろうか。
 平和を祈るのみだ」
「中国に腐敗のない所がどこにあるんだ?
 調査される人は運が悪いだけのこと。
 大切なのは能力があって仕事をきちんとできるかどうかだ。
 規律違反をしていない人なんて誰もいないよ」



 WEDGE Infinity 日本をもっと、考える   2014年12月26日(Fri)  石平
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/4590

習近平VS胡錦濤
加熱する権力闘争の行方


●令計画(写真:ロイター/アフロ)

 2014年12月22日、中国の新華通信社は中央政界を震撼させるような重大ニュースを発表した。
 胡錦濤前国家主席の側近である令計画・人民政治協商会議副主席(党統一戦線部長兼任)について、「重大な規律違反の疑いがある」として調査を開始したとのことである。
 習近平国家主席の肝いりの「腐敗撲滅運動」が進む中、この「重大な規律違反」は当然、「汚職」を指していると思われる。

  問題は、取り調べを受けた令氏という人物の立場である。
 彼は共産党内の主要派閥である共産主義青年団(共青団)派の中心人物として知られ、胡錦濤政権時代には政権の大番頭とよばれる党中央弁公庁主任を5年間も務めた大物だ。
 今まで、習近平指導部が進めた腐敗摘発は主に江沢民派に連なる引退幹部をターゲットにしていたが、
 胡錦濤派の現役幹部に摘発のメスを入れるのは初めてのことである。

 令計画氏の場合、2012年3月に大学院生だった息子が北京市内で高級外車を運転中に事故死した際、これを隠蔽しようとした疑惑が浮上していた。
 それ以来、収賄などの疑惑が取り沙汰され、党の規律部門が内偵していたと言われる。
 しかしそれでも、彼は胡錦濤派の強いバックアップがあり、摘発から逃れつつ、
 取り調べが発表された現在でも、共産党統一戦線部長の要職にとどまっている。
 そして前述の「取り調べ開始発表」直前の12月中旬発売の共産党機関誌には彼の寄稿が掲載されていることもあり、彼の地位は安泰であるように見えた。

 したがって、22日に発表された「令計画取り調べ開始」は、習近平国家主席の胡錦濤派に対する奇襲攻撃とも捉えられるが、
 問題は、習主席がどうしてこのタイミングで胡錦濤派に牙をむき始めたのか
である。

 それに関して、一つ注目すべきなのは、
 胡錦濤派のもう一人の重要幹部で現役の政治局委員・副首相の汪洋氏
が12月18日に米国で行った興味深い発言である。
 16日から米シカゴで開催される第25回中米合同商業貿易委員会(JCCT)に汪洋氏が中国側の代表として出席したが、彼は会議の演説において次のような発言を行った。

 「米中はグローバルなビジネスパートナーではあるが、世界を導いているのはアメリカである。
 アメリカは既に秩序とルールを主導している。
 中国はこの秩序に参加したい、規則を尊重したい」
と。
 その上で汪洋氏はさらに、
 「中国には、アメリカの指導的地位に挑戦する考えもなければそのような能力もない」
と断言して、米中の協力関係の増進を訴えた。

■政権の対米戦略と相容れない発言内容

 汪洋氏のこの発言は中国国内でほとんど報道されることなく、「上海春秋戦略研究院」という民間研究機関の開設する「観察者網」というサイトで一部紹介されただけだった。
 しかし中国現在の政治状況を熟知している者であれば、それは実に大胆不敵な衝撃発言であることがすぐに分かる

 というのも、習近平主席が就任以来一貫して唱えている対外戦略及び対米外交戦略の基本は、決して
 「アメリカの指導的地位とアメリカ主導の秩序を尊重する」ようなものではなく、
むしろアメリカの指導的地位に対する「挑戦」を強く意識したものだからだ。
 習主席の提唱する「米中新型大国関係」は、要するに中国が大国としてアメリカと対等に渡り合うことを前提にしたものであり、
 習主席の唱える「アジアの新安全観」はさらに露骨に、アジアの安全保障への関与からアメリカを排除しようとするもの
である。

 つまり前述の汪洋氏発言は明らかに、習主席の対米戦略方針から大きく逸脱しており、むしろ正反対の立場となっている。
 一副首相の彼が公の場で国家主席の基本方針と正反対の見解を示したことは、中国の政治文化においては国家主席の権威に対する反乱であり、いわば「謀反」に近いものである。
 つまり胡錦濤派の重要幹部の汪洋氏は公然と、
 習主席に反旗を翻して挑戦状を叩き付けた
のである。

 この文脈からすれば、汪洋発言が行われたわずか4日後の22日、習近平が突如令計画に対する取り調べ開始を発表したことは、まさに胡錦濤派の売った喧嘩に対する習主席の反撃だと理解すべきであろう。
 これによって
 、習近平国家主席と、胡錦濤前主席及び胡氏の率いる共青団派との権力闘争の幕が切って落とされた
のである。

 2014年7月30日に掲載した私の論考『習近平の腐敗撲滅運動は「権力闘争」 、裏で糸引く胡錦濤の「復讐」と「野望」』では、腐敗摘発運動で習主席と胡錦濤派が連携して共通の敵である江沢民派の一掃を図った経緯を記した後、今後の行方については以下のように予測している。
 「運動の目的が一旦達成されて江沢民派の残党が葬り去られて現役の江沢民派幹部も無力化されてしまう、つまり共通の敵が消えてしまうと、
 次なる権力闘争はむしろ胡錦濤前主席と習主席との間で、
 すなわち共青団派と太子党との間で展開されていく
はずである」
と。

 今となってみれば、事態の展開はまさに私の予測する通りのものとなった。
 江沢民派大幹部の周永康氏の党籍剥奪からわずか数カ月たらずで、
 習主席はその「腐敗摘発」の矛先を胡錦濤前主席の率いる共青団派に向けてきた
のである。

■習主席VS共青団派の「最後の戦い」の行方

 それでは、習主席VS共青団派の戦いは今後どのような展開となるのか。
 それを占うためにはまず、そもそも共青団派とは一体どういうものであるかを、ここで一度概観しておく必要がある。

 共青団派というのは、共産党元総書記の胡錦濤氏がその在任中に、自らの出身母体である共産主義青年団から幹部を大量に抜擢して作り上げた派閥である。
 胡氏が退任した今でも、この派閥は党と政府の中で大きな勢力を擁している。

★.政治局常務委員で現役の国務院総理(首相)の李克強氏は胡錦濤氏に次ぐ共青団派の大幹部で、胡氏引退後の派閥の大番頭の立場にある。
★.彼と並んで政府の中枢にいるのは国家副主席の李源潮氏
 この人もまた、共青団派の中心人物の一人である。

 そして現在の共産党政治局には、前述の
★.汪洋氏(国務院副総理)、
★.孫政才氏(天津市党委員会書記)、
★.胡春華氏(広東省党委員会書記)
などの50代そこそこの共青団派若手幹部が控えている。
 そして
★.2017年開催予定の次期党大会で今の政治局常務委員の大半が年齢制限によって一斉に退陣した後、
 彼ら共青団派の若手が一挙に政治局常務委員会入りを果たして最高指導部を掌握する構えである。

 その一方、前述の拙稿で指摘しているように、胡錦濤前主席は、共産党第18回党大会において共産党総書記の立場から退く直前の2012年10月から11月初旬にかけて、
★.自らの腹心軍人の房峰輝氏を軍の最重要ポストの参謀総長に任命し、
★.さらに范長龍と許其亮の両名を党の中央軍事委員会副主席に任命した。
 つまり胡氏は自らの退陣を前にして、軍の中枢部を自分の子をもって固めることによって軍を掌握したのである。
 その結果、習近平主席が政権を握った時には、軍は既に胡錦濤派の軍となっていたわけである。

 このようにして、胡錦濤氏の率いる共青団派は政治局に若手幹部を多数送り込むことに成功し、軍を押さえることもできた。
 このような状況下では、共青団派の次なる政権戦略は明々白々である。
 要するに、2017年秋に開催予定の次回党大会において、現在政治局常務委員の大半を占める江沢民派の幹部たちが確実に退陣するのを受け、
 共青団派は軍の支持をバックに現在の政治局にいる自派の若手幹部たちを一斉に政治局常務委員を昇進させ、党の中枢部を一気に掌握してしまう、
ということである。
 その際、政治局常務委員となって政権の要となることを特に期待されている共青団派の次世代ホープの筆頭は、すなわち前述の汪洋氏である。

 もちろん、共青団派の描くこのような政権戦略は、現在の最高指導者の習近平主席にとっては悪夢以外の何ものでもない。
 次回党大会において共青団派がその思惑通りに物事を進めることを許してしまえば、党大会以後の政権はもはや習近平政権ではなくなり、完全に共青団派政権となってしまうからである。

 習主席としてはこの事態を何としても阻止しなければならない。
 したがって、腐敗摘発運動で江沢民派の力を削いだ後、次のターゲットは共青団派の幹部となる。
 まさにそのために、習主席は早くから疑惑の多い共青団派幹部の令計画氏に目をつけていたが、前述のように汪洋氏が公然と習主席に反旗を翻すような言動をとると、習主席側はさっそくその反撃として令計画に対する取り調べの公表に踏み切った、ということである。

 以上が令計画の一件の背後にある権力闘争の一部始終であるが、戦端が開かれたら、この戦いはどのような結末を迎えるのか。
 おそらく習主席が破れる確率の方が高い
と思われる。
 軍をほぼ完全に掌握して政治局にも大きな勢力を占める共青団派の実力は侮れるものではない。
 共青団派若手ホープの汪洋氏が公然と習主席に盾突くような行動に出るのには当然、それなりの覚悟と勝算があるはずであろう。

 しかも就任以来、あまりにも苛烈な腐敗摘発運動を推進した習主席に対して、党内の一般幹部の間でも反発の気運が高まっているから、党内の多くは共青団派支持に傾く可能性も十分にある。
 したがって、
共青団派に対する「最後の戦い」で習主席が敗北してしまう公算が大
であろう。
 ひょっとしたら、
 令計画の摘発というルビコン川を渡った習主席はすでに、墓穴を掘り始めた
のかも知れない。2015年からは、共産党中枢部で展開されている熾烈な権力闘争はいよいよ「佳境」を迎えるであろう。

■権力闘争が加速させる中国経済の崩壊

 習近平政権にとっての「墓穴」は実は政治だけでなく、経済でも同様である。
 2014年10月1日に掲載した私のコラムでは、中国で不動産経営者の夜逃げラッシュが起きている実態をレポートしたが、実はその後、夜逃げラッシュは不動産業界に限らずすべての経済領域に広がってきているのである。

 たとえば10月から11月にかけて全国で起きた夜逃げ事件の数々を拾ってみれば以下のようになっている。
 10月22日と24日、広東省中山市にある照明器具企業の華亮灯飾公司と喜林灯飾公司の両方の経営者が相次いで夜逃げした。
 華亮灯飾公司の場合、踏み倒された借金は7000万元に上る。

 23日、陝西省大茘県にある金紫陽公司経営者の呉江鵬氏は数億元の借金を踏み倒して夜逃げした。

 25日、山東省即墨市の某アパレル企業の経営者は従業員の未支払い給料45万元を踏み倒して夜逃げした。

 11月5日、雲南省羅平県では、東方不動産開発公司の経営者が夜逃げしたが、彼が手がけた「金桐花苑」という県の「重点開発プロジェクト」は工事の途中である。

 13日、中国中古車市場の第一ブランドと称される「易車匯」の経営者が夜逃げし、全国に点在する数多くの店舗が一斉に閉鎖された。

 同13日、河南省鄭州市物流大手・東捷物流の経営者が夜逃げ、公司に商品を供給している数百軒の企業は売掛金の回収が出来なくなった。

 そして14日、大連市では前代未聞の「夜逃げ事件」が起きた。
 中之傑物流と邁田スーパーという2つの会社の経営者が同時に夜逃げしたが、この2人は実は夫婦なのである。

 このように、製造業から物流業まで多岐にわたる業界で、経営者たちによる夜逃げ事件が多発していることが分かるが、
 経済環境全体の悪化以外に、「高利貸」とよばれる闇金融の氾濫も、大きな原因の一つである。
 金融不安が高まる中で、保身に走る国有銀行が民間中小企業への融資を渋った結果、多くの中小企業は生き延びるために闇金融に手を出すことになったが、借りた金の法外な高金利に耐えられなくなると、経営者たちの選んだ道は結局、元本を踏み倒しての夜逃げである。

 このような現象が広がると、窮地に立たされるのは高利貸しの民間金融業者である。
 貸金が踏み倒された結果、今度は彼ら民間金融業者の夜逃げも始まったのである。

 たとえば四川省の大都会の成都市では、民間金融業者の創基財富会長の段家兵氏の失踪が発覚したのは10月20日であるが、それに先立って、9月4日には聯成鑫という民間金融の経営者が姿を晦まし、同12日には、内江聚鑫融資理財公司の経営者が飛び降り自殺した。
 そして10月初旬、それこそ地元民間金融大手の四川財富聯合が破綻して、経営者の袁清和氏は夜逃げ先で拘束された。
 9月からの一連の「破綻・夜逃げ事件」で焦げつきとなった融資総額は百億元にも上ったという。

 かくして今の中国では、多業界にわたる夜逃げラッシュが各地で広がり、そのドミノ効果を以って民間金融の破綻を誘発するという悪循環が始まっていることが分かる。
 そして、民間金融から大量の資金を調達しているのは不動産開発業者だから、現在進行中の不動産バブル崩壊はまた、この悪循環に拍車をかけることとなろう。
 バブル崩壊後にやってくるのはすなわち金融の崩壊であるから、中国経済の末日が確実に近付いてきていると言える。

■経済運営における「支障」

 しかしその一方、中国共産党政権の中枢部で起きている熾烈な権力闘争は今後、その展開によっては、経済の崩壊をより一層加速させる危険性も孕んでいる。

 現在、国務院総理(首相)の任に当たっているのは共青団派の大番頭の李克強氏であることは前述の通りだが、
 中国の場合、普段なら国務院総理は経済運営の司令塔となってその全責任を負う存在である。
 たとえば以前の胡錦濤政権の場合、やはり国務院総理の温家宝氏が最高責任者として経済運営全般を仕切っていた。
 しかし習近平政権になってから様相が変わった。
 国務院総理は共青団派の李克強氏が就任しているが、その一方、2014年6月から、
 習近平主席は「中央財経領導小組(領導チーム)」の組長となった
ことが確認された。

 「小組」とは、共産党中枢部において各領域別の仕事を指導するための非公式な意思決定機関、というものであるが
 、中央財経領導小組というのは当然、党内において国の経済政策を決定するための指導チームであり、経済運営の事実上の司令塔なのである。

 この中央財経領導小組はもちろん以前から存在しているものであるが、江沢民政権時代の1992年以来、国務院総理がその組長を務めるのが慣例となっていた。
 たとえば李克強総理の前任の温家宝前総理、そしてその前任の朱鎔基元総理は総理在任中にずっと中央財経領導小組の組長を兼任していた。

 習近平政権になってから、中央財経領導小組の組長に誰が就任していたかは不明であったが、2014年6月以降、党の総書記であり国家主席の習近平氏が総理の李克強氏に取って代わって就任したことが初めて知らされた。
★.今まで20年以上も続いた慣例を破った異例の出来事である。

 習主席自ら中央財経領導小組の組長に就任したことは、
 共青団派の李克強氏に対する不信感の表れであろうが
 肝心の経済運営にとって大きな支障となる可能性が大である。

 習氏は普段、政治・軍事・外交の全般を仕切る立場であるから、経済運営に多くの時間と心労をかけることはまず不可能だ。
 実際の経済運営に携わるのは結局総理の李克強氏となるが、経済運営に関する最終決定権を習主席に取り上げられた以上、李氏はきちんとした意思決定も出来なければ、経済運営に対する全責任を負う必要もない。
 このような二重権力構造は結果的に、意思決定の遅れと責任の不在をもたらす
ことになるであろう。

 習主席VS共青団派の権力闘争が熾烈化していく中で、
 習主席と李克強総理との関係は「犬猿の仲」というよりもむしろ「不倶戴天の敵」
となるであろう。
 この2人の敵対と暗闘によって、より一層の経済状況の悪化を招くことになるに違いない。

 あるいは、経済運営の最高責任者となった習主席が経済破綻の責任を負わなければならないから、総理の李克強はむしろ経済の破綻を心の中では待ち望んでいるかもしれない。
 少なくとも、李克強氏には、何としても経済の破綻を回避しなければならないという強い動機が生じにくい。
 このような状況下で中国経済は確実に、地獄へと陥る道を歩むこととなろう。

 2014年に入ってからの一連の政治的行動によって、
 習主席は自らの墓穴を掘り始めた。
 彼の政権は一体どのような結末を迎えるのか、
 まさにこれからが見物である。



レコードチャイナ 配信日時:2014年12月27日 17時36分
http://www.recordchina.co.jp/a99665.html

中国人民解放軍の権力変動
=「東北軍」「西北軍」の力弱まり
「南京軍」が台頭―香港紙

 2014年12月24日、香港紙・明報は記事
 「徐才厚、郭伯雄派を洗い流す!南京閥が台頭」
を掲載した。

 習近平(シー・ジンピン)総書記の反汚職キャンペーンは官僚だけではなく、人民解放軍にも大きな影響を与えている。
 元中央軍事委員会副主席、すなわち制服組トップを努めた徐才厚(シュー・ツァイホウ)氏は取り調べを受けていることが公表された。
 同じく元副主席の郭伯雄氏にも取り調べの手は伸びているという。

 毛沢東は「政権は銃口から生まれる」との言葉を残した。
 『毛沢東語録』を頻繁に引用する習総書記もこの点はよく分かっているはずだ。
 軍高官の大半は
★.徐才厚の「東北軍」、
★.郭伯雄氏の「西北軍」
の二大派閥が大勢を占めてきた。
★.習総書記は新たに子飼いの「南京軍」を引き上げている。

 習総書記はかつて福建省、浙江省、上海市など地方で経験を積んだが、これらの地域は南京軍区に属している。
 総書記と個人的なパイプを持つ「南京軍」派閥は影響力を強め、「東北軍」「西北軍」に代わるポジションを得ている。



レコードチャイナ 2014-12-30 10:51
http://news.searchina.net/id/1555470?page=1

中国共産党「党内分派活動は絶対に容認せず」
・・・改めて強調、背景に腐敗撲滅運動への抵抗勢力か

 中国共産党中央政治局は29日、同党中央紀律検査委員会から2014年の作業の報告を受けるための会議を招集した。
 同会議は、腐敗現象の蔓延には一定の歯止めをかけることができたなどと結論すると同時に、党内でのグループ結成や徒党を組んでの私利の追求を絶対に容認しないと強調した。
 党紀粛正や腐敗撲滅運動への抵抗勢力に警戒を強めている可能性が高い。
  会議は2014年の成果として、「形式主義」、「官僚主義」、「享楽主義、」、「贅沢な風潮」からなる「四風問題」と腐敗現象の蔓延には一定の歯止めをかけることができたと結論した。
 その一方で、
 「全党は、反腐敗闘争では依然として極めて厳しく複雑な情勢が続いていると冷静に冷めた目で認識せねばならない」
と主張した。
  さらに、
 「党規律の建設について、さらに突出した位置づけをして、規律による例外のない制約を強化し、政治規律と政治規則を厳格公正にする」
とした上で、
 「党内で公然とグループを結成したり、徒党を組んでの私利の追求、助け合うための派閥を組むことは絶対に容認しない」
と強調した。

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◆解説◆ 
 中国共産党の習近平総書記(国家主席)が主導する腐敗撲滅運動は、相当に大きな成果を出しており、庶民の評価も基本的には肯定的だ。
 しかし、「順調」とは言い切れない面がある。
  例えば、第17期中国共産党中央政治局常務委員(2007年-12年)を務めた周永康氏の場合、2013年12月には消息が途絶えた。
 同時点で、汚職問題の追及が本格化していたと理解するのが自然だが、中国共産党が同氏を「重大な規律違反で立件」と発表したのは14年7月29日だった。
 中国には31のる省レベル行政区画(省・中央直轄市・民族自治区)があるが、7月29日の「発表」から1週間以内に党中央による同決定を明確に支持したのは18カ所にとどまり、党内の“温度差”を示唆することになった。
  さらに、中国共産党が11月下旬に開催した重要会議であるた第18期中央委員会第4回全体会議(18期四中全会)は、不正で摘発された高級幹部6人の党籍剥奪を決めたが、周永康氏についての発表はなかった。
  問題を起こした中国共産党員にとって、党籍を維持できるかどうかは、極めて大きな意味を持つ。
 党籍を維持できれば、共産党からいまだに「同志」と見なされており、処罰・処分はされても「復帰」の可能性があるからだ。
 党籍剥奪は「裏切り者」と見なされ、「共産党の敵・人民の敵」として扱われることを意味する。
  周永康氏の党籍剥奪が決まったのは2014年12月5日だった。
 つまり、不正追及の本格着手から「徹底的な処罰」が決まるまで1年間を要したことになる。
 中国では異例の遅さであり、周氏の扱いについて「なんらかの綱引き」があったと考えるのが自然だ。

 「分派活動を許さない」とした12月29日の会議の決定も、「抵抗勢力の存在」を示唆する。
  マルクス・レーニン主義政党は通常、「党内派閥」を強く忌避する。
 ソビエト共産党の指導者だったレーニンが固めた方針で、武力革命の成功と、国外からの武力干渉に対抗するためだった。
 軍において、「上部の命令に下部は絶対服従」が求められるのと同様の理由と解釈してよい。
  レーニンは、共産党の「トップ・ダウン」方式を“戦時下”における特別措置と考えてたと見られるが、次の指導者となったスターリンは共産党における「トップ・ダウン」方式をさらに強化し、常態化した。
 中国共産党が「原型」としたのはスターリンが築いたソビエト共産党だった。

  したがって、中国共産党にとっては「党内に派閥があってはならない」ことになる。
 党中央の意見に従わなければ、「反逆者」との扱いになる。
 同党重慶市委員会トップの薄熙来書記が2011年に失脚したのも、「党内の“合意”に背き、毛沢東風の大衆運動を推進した」ことが、決定的だったとされる。

  これまでに、習近平総書記が10月に、「党内での分派活動や利益集団の結成は許さぬ」と発言した例もある。
 中国共産党内で、本来ならばあってはならない「分派」の存在が、政策遂行の大きな障害なっている可能性が高い。
  なお、中国の李克強首相は、規制撤廃などによる内需拡大を目指した経済改革に取り組んでいる。首相第1期である2018年までに成果を出さねば、自らの政治生命も大きな影響を受けると認識して取り組んでいるとみられる。
  李首相の経済改革に立ちはだかるのは、いわゆる「既得権益層」と考えてよい。
 一方、腐敗撲滅の対象になるのは「法やルールに違反してまでも既得権益を追及した者やグループ」と言ってよい。
 その意味で、腐敗撲滅運動については、全体的に言えば習近平主席と李克強首相の利害が一致しているとみなすことができる。


時事通信 12月31日(水)17時13分配信
http://www.jiji.com/jc/c?g=int_30&k=2014123100162

令計画氏の解任発表=中国

 【北京時事】
 中国共産党中央は31日、国営新華社通信を通じ、胡錦濤前国家主席の元最側近で、重大な規律違反で調査を受け失脚した令計画・党中央統一戦線工作部長を解任し、後任として孫春蘭・天津市党委書記(党中央政治局員)の任命を発表した。
 新華社通信は30日、孫氏が別のポストに就き、後任として黄興国市長が党委書記の職務を代理すると伝えていた。 



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