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JB press 2014.08.29(金) 阿部 純一
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/41583
両立は困難、
習近平はなぜ2つの改革に挑むのか反腐敗キャンペーンで軍部は混乱
6月30日の徐才厚・前中央軍事委副主席(政治局委員)の党籍剥奪処分で、軍における反腐敗キャンペーンは一段落したように見える。
しかしながら、胡錦濤時代、軍の人事を壟断してきた徐才厚が残した負の遺産は計り知れない。
徐才厚に賄賂を送って昇格した高級軍人はいまだに軍の中枢にいるわけであり、また、徐才厚と共に中央軍事委副主席にあった郭伯雄が、腐敗汚職の件でいつ「落馬」(中央紀律検査委による査問の公表)してもおかしくない状況にあると言われている。
実は郭伯雄も徐才厚に負けず劣らずの腐敗ぶりだったとされる。
その郭伯雄に連なる高級軍人といえば、現職の国防部長である常万全がいる。
また、現職の中央軍事委副主席である范長龍も徐才厚によって抜擢された人物と見られている。
これらの軍人が腐敗と無縁であったとは考えられない。
その意味でも軍における反腐敗キャンペーンは、もうしばらく続くと考えた方がいいだろう。
■習近平打倒の政変が画策されていた?
本当かどうか確証のない話を紹介するのは気が引けるが、8月6日の中国語ネット「博訊新聞」が伝えたところでは、習近平の進める無差別の反腐敗キャンペーンに危機感を抱いた范長龍、房峰輝(総参謀長)、常万全らが郭伯雄を擁護し、習近平を打倒する政変を画策したとされている。
ここに房峰輝が加わっていることに違和感を覚える向きもあるかもしれない。
房峰輝は北京軍区司令員として、2009年の建国60周年を祝う軍事パレードの総指揮を務め、胡錦濤とともに観閲車から閲兵した人物で、胡錦濤のお気に入りの将軍と見られていたからだ。
しかし、房峰輝はれっきとした郭伯雄人脈なのだ。
2人の出身地である陝西省咸陽の地縁関係にあるわけで、直系の師弟関係にある。
常万全は年齢的に郭伯雄に近いことから、関係はさらに濃密と言えるかもしれない。
常万全が蘭州軍区第47集団軍の軍長に就任したのは、郭伯雄の後任としてであった。
徐才厚が出身地の遼寧省瓦房店を中心に、瀋陽軍区の人脈を形成したのと同様、郭伯雄も蘭州軍区を人脈の形成拠点としてきた。
徐才厚が「東北幇」の頭目とするなら、郭伯雄は「西北幇」の頭目と位置づけられるのである。
習近平はいまだ健在だから、郭伯雄が目論んだ政変はなかったのかもしれないし、あったとしても未遂に終わったのだろう。
この話自体、江沢民派の飛ばしたデマだという報道もある。
しかし、人脈的な事実関係は間違っていないことから、本当にデマかどうかも分からない。
ただ肝心なことは范長龍以下のメンバーも依然として現職にとどまっているということである。
郭伯雄の「落馬」が明らかになれば、「次はわれわれの番かもしれない」という動揺が彼らの間で高まり、不穏な動きに出る可能性は排除できないだろう。
腐敗に関しては「身に覚えのある」高級軍人は多数いるだろうから、糾合すれば大きな勢力になるかもしれない。
■「戦える」「勝てる」軍隊を作る改革
ところで、習近平は軍事改革にも意欲的だとされる。
人民解放軍の機構改革や「裁軍」(兵員削減)は、鄧小平、江沢民時代に実行に移され、胡錦濤が中央軍事委主席に就任した2004年に、総装備部の新設と海・空・第二砲兵の司令員が中央軍事委員会入りして現在の体制が作られ、以来10年間、目立った軍の改革は行われてこなかった。
しかし、2013年11月に開催された党18期3中全会において改革の全面深化に関する決定が採択され、その中に軍事改革も盛り込まれていたのである。
習近平にとって、軍事改革と反腐敗は同列にある。
腐敗した軍隊がまともに戦闘に従事するとは考えにくいからである。
腐敗を撲滅し、綱紀粛正を図るとともに、「戦うことができ、勝利することができる(能打仗、打勝仗)」軍隊を作り上げるのが、習近平の意図する軍事改革であろう。
習近平が中央軍事委副主席だった胡錦濤政権後期には、軍における腐敗状況はすでに周知のものとなっていたことを考えれば、習近平が政権を掌握して間を置くことなく「能打仗、打勝仗」を軍の方針としたのは、彼が好戦的な指導者というよりも、そうしなければ軍としての体裁がとれないと考えたからだろう。
■鄧小平の軍事改革を目の当たりにした習近平
そこで思いつくのは、習近平が1979年に清華大学を卒業し、最初に就いた職務が、当時副総理の職にあった耿飈(コウヒョウ)の秘書として国務院弁公庁で働いたことだった。
いくら清華大学卒とはいえ、一介の新卒学生がそんなポストに就くのはあり得ない話だが、耿飈が習近平の父・習仲勲と親しい関係であったから実現したわけであり、まさに「太子党」ならではのことであった。
耿飈はまた79年には中央軍事委員会秘書長も兼務し、81年から82年には国防部長でもあった関係で、秘書の習近平は、軍の情報にアクセスする必要から軍籍に入った。
習近平が耿飈の秘書を務めたのが1979年から82年までである。その頃の中国といえば、鄧小平が実権を掌握したばかりの時期でもあったが、79年1月に米国と国交を樹立するとすぐにベトナムに対し「懲罰戦争」を開始した頃でもあった。
中国とベトナムとの、いわゆる中越戦争について、ここで詳しく紹介する紙幅はないが、この戦争を開始した鄧小平にとって、これは軍事改革を進めるための人民解放軍に対する試練と位置づけていた。
鄧小平が実権を握った1980年代初め、人民解放軍は文革時代に兵員約400万にまで肥大化した軍隊のままで、階級制度もなく、とても近代的な戦争を戦える組織ではなかった。
表向きには、中越戦争は中国側の大勝利と喧伝されているが、実際にはベトナムの反撃によって甚大な人的損害を出している。
鄧小平の目論見通り、人民解放軍が近代的戦争を戦える軍隊ではないことを身をもって体験させたことになる。
そういった時期に習近平は、党や軍の中枢が戦わす軍事改革をめぐる議論を間近に見ていたことになる。
82年に耿飈の元を離れ、河北省、福建省、浙江省、上海と地方での政治キャリアを積んでいくが、鄧小平の改革開放政策、軍事改革の初期段階を北京で目の当たりにした習近平が影響を受けなかったとは考えにくい。
鄧小平は1985年から86年にかけて100万人兵員削減という最大規模の軍のリストラを断行し、陸軍を集団軍に再編した。
同時にこれまでの11大軍区を7大軍区に整理統合し、1988年には65年に廃止されていた軍の階級制度を復活させ、人民解放軍は近代的軍隊の体裁を整えていったのである。
以来、人民解放軍の基本構造は大きく変わることなく30年近く経過している。
現在の人民解放軍の総兵力は230万を数え、世界最大規模の軍隊であり、その過半は陸軍が占めるという伝統的大陸国家の軍隊のままである。
■本格的に統合作戦能力の強化へ
この人民解放軍を、習近平はどのように改革していくのか。
習近平の軍事改革に具体的な青写真があるかどうかは知らない。
しかし、巷間言われていることを断片的に挙げれば、例えば
★.兵員規模を陸軍を中心に80万人削減し150万人にする、
★.政治将校制度を見直す、
★.軍内における歌舞団など非戦闘員の削減、
★.7大軍区を5大戦区に統合する、
などがある。
それぞれ、実際に行おうとすれば内部の強い抵抗は避けられない案件である。
しかし、中国は2014年7月から人民解放軍の陸・海・空・第2砲兵部隊を動員する全国規模の大軍事演習を実施しており、そのために総参謀部内に各軍種の一体運用を図る「統合作戦指揮センター」を設置したことが報じられている。
軍種をまたぐ統合作戦能力が劣ることは人民解放軍の弱点であり、そのための統合作戦演習なども10年以上前から行ってきた経緯があるが、いよいよ本格的に統合作戦運用のための指揮部門を新設したことになる。
2013年11月に突然設置された東シナ海上空の防空識別圏についても、「東シナ海合同作戦指揮センター」が常設され、海・空軍の一体運用が図られている。同センターも指揮権は総参謀部にあるとされていることから、前記「統合作戦指揮センター」の機能の一部となっていると思われる。
こうして見ると、習近平の軍事改革はすでに動き出していると言ってよいだろう。
しかし、軍内の反腐敗キャンペーンが今後も継続されるなかで、どこまで本格的な軍事改革ができるのか。
その一方で、最前線である軍の末端に、「能打仗、打勝仗」というプレッシャーばかりかければ、
戦闘機の異常接近など本来すべきでない危険行為も
「英雄的行動」として兵士を駆り立ててしまう
ことになりかねないし、すでにその傾向が見られる。
反腐敗キャンペーンが軍中枢の動揺と混乱を招くなかで、軍中枢の指揮命令系統に不安が生じることを防ぎきれるのか。
反腐敗と軍事改革という、本来同時に行なってはならないことを習近平はやろうとしている。
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ロイター 2014年 08月 29日 18:47 JST
http://jp.reuters.com/article/mostViewedNews/idJPKBN0GT0VZ20140829?pageNumber=1&virtualBrandChannel=0
中国軍将校「米軍機にもっと接近を」、潜水艦偵察に対抗呼び掛け
[香港/北京 29日 ロイター] -
中国の海軍将校は今週国営メディアで、南シナ海上空の国際空域で前週に中国軍の戦闘機が米軍の対潜哨戒機に異常接近した問題について、
中国機は米軍機にもっと近づく必要があった
との見解を示した。
中国の軍事専門家らは、弾道ミサイル搭載潜水艦隊に対する米国の偵察行為を阻止する中国側の断固とした決意を反映し、今後も同国沖の危険な接近行為は続く見通しで、場合によっては強化されると指摘する。
これは、パイロットの独断的な行動ではなく、上層部の指示の下での行為の可能性があるとしている。
張召忠・海軍少将(中国国防大学所属)は共産党機関紙・人民日報傘下の環球時報に対し、
「(これまでは)彼らに十分な圧力をかけていなかった」
と述べ、
「ナイフを喉に突き付けることが唯一の抑止力だ。
今後は、米偵察機にさらに近づいて飛行する必要がある」
と言明した。
米国防総省は、今月19日に中国の戦闘機が米海軍の最新鋭対潜哨戒機P8(ポセイドン)に異常接近したとして、中国側の行動を危険と非難。
一時は翼端から9メートルの距離に接近し、その後「バレルロール」と呼ばれるアクロバット的飛行も行ったという。
中国側はこれは根拠のない非難と一蹴し、安全な距離を保っていたとの見解を示している。
軍事専門家らは、米国の偵察が海南島の基地所属の潜水艦隊に向けられていたようだと指摘する。
その中には、中国の核抑止力戦略で主要な位置を占めることになるとみられる核武装弾道ミサイルが搭載可能な潜水艦もある。
香港の嶺南大学で本土の安全保障を専門とする張泊匯氏は、
「長期的には、このような潜水艦は中国にとって効果的な抑止力という意味で唯一の望みであり、極めて重要だ」
と指摘する。
米国防当局者は、米軍機に異常接近した中国のパイロットは海南島の部隊の所属で、この部隊は3月、4月および5月の接近飛行にも絡んでいるという。
同当局者は2013年末以降、米軍機に対する「非標準的でプロらしくない危険な」妨害行為が増加傾向にあるとした。
米軍は昨年終盤以降、沖縄にP8対潜哨戒機6機を配備している。
ワシントンの米高官は、
異常接近の権限を与えたのが中国の指令系統のどの階層なのか、
あるいは
現地の司令官またはパイロットが独断的に行動したのか
米国は把握していないと述べた。
米中の軍当局者は今週ワシントンで、空と海での行動規範をめぐり協議している。
日本もこれまで、中国が昨年11月に東シナ海上空で設定した防空識別圏で、中国軍の戦闘機が自衛隊機に接近したとして批判している。
4─6月に中国機に対して自衛隊機を緊急発進(スクランブル)した回数は104回で、前年同期よりも51%多い。
台湾は26日、中国軍機が台湾の防空識別圏に進入したため、戦闘機が緊急発進したと明らかにしている。中国は通常の飛行だと主張している。
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