2014年8月15日金曜日

軍を叩き直そうとする習近平:腐敗させた江沢民:改革に失敗した胡錦濤

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●ロイターより


ロイター 2014年 08月 19日 12:48 JST
http://jp.reuters.com/article/worldNews/idJPKBN0GJ06Z20140819

中国軍の腐敗に高まる懸念、日清戦争開戦から120年機に

[北京 19日 ロイター] - 東・南シナ海をめぐり周辺国との緊張が高まる中国で、軍の腐敗に対する懸念が高まっている。
 現職・退職幹部や国営メディアからは、あまりの堕落ぶりに戦争になっても勝てないのではないかとの疑念も出ている。

政府系メディアはここ数カ月、人民解放軍ではびこる汚職と、軍の腐敗が120年前の日清戦争における中国の敗北につながったことを関連付けた記事を相次いで掲載。
 ステルス戦闘機の開発や2012年の空母就役など、急速な軍の近代化を考えれば懸念はつきものだが、2件のスキャンダルが軍の腐敗体質をあらためて浮き彫りにした。

 中国は6月、賄賂を受け取ったとして、軍制服組最高幹部だった徐才厚・元共産党中央軍事委員会副主席の党籍を剥奪し、軍法会議にかけると発表した。

これより前には、徐氏に近い谷俊山・元総後勤部副部長も汚職で起訴された。
 関係筋がこれまでにロイターに語ったところによると、谷氏はお金の見返りに軍内のポストを与えたり、軍が保有する土地の開発契約に絡んで利益を得たりしたとされる。

 軍高官らが懸念するのは、中国で長年にわたり公然の秘密となっている幹部ポストの売買だ。
 こうした悪弊が優秀な人材の排除につながっているとされる。

上海に拠点を構えるオンラインニュースサイト「澎湃新聞」が先週伝えたところによると、軍の元幹部で論客として知られる羅援氏は「腐敗幹部が現れ続ければ、軍にいくらお金を投じても足りないだろう」と指摘。
 「徐才厚や谷俊山のような腐敗幹部が吸い上げたお金は数億もしくは数十億元になる。これでどれだけの戦闘機がつくれるのだろうか。腐敗を取り除かなければ、戦う前に敗れるだろう」
と話した。

ロイターは徐氏や谷氏と接触することができず、コメントを得られなかった。

人民解放軍の腐敗についてコメントを求めたが、国防省から回答は得られなかった。



 WEDGE Infinity 日本をもっと、考える  2014年08月15日(Fri)
  小原凡司 (東京財団研究員・元駐中国防衛駐在官)
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/4113?page=1

軍を叩き直そうとする習近平
腐敗させた江沢民、改革に失敗した胡錦濤

中国民用航空局は、2014年7月20日から8月15日まで、上海など12の空港を発着する航空便を25%減らすよう国内航空会社に求めた。
対象になったのは、東シナ海に面する南京、済南両軍区内にある空港が中心である。
この発着便削減は、日本では、日米などを想定した軍事演習を控えた措置ではないかと見られている。

 実際に中国人民解放軍は、2014年7月から大規模な実弾演習等を開始しており、空港の発着便削減はこの演習の影響を受けているのだ。
演習のために民間航空機の運航に影響が出るのは今に始まったことではない。
中国の空域は空軍が管理している。
地域によって低空域は民間に開放されたが、航空路を飛行する民間の急患輸送機が数日待たされることもあると聞く。
 しかし、ここまで大規模な規制は聞いたことがない。

■3カ月という期間も異例の長さ

 演習全体の期間は航空機発着制限の期間をはるかに超え、約3カ月と異例の長さである。
 また、規模も大きい。中国の国営メディアよると、7月15日以降、総参謀部の計画に従って、南京、瀋陽、広州、北京、成都、済南の6つの軍区から、長距離ロケット、砲兵、防空旅団等、陸軍の10個部隊が、全員全装備で、順次6つの訓練基地に赴き、実弾演習等を実施するという。

 しかし、この中国メディアの表現は、一つのシナリオに基づいた応用訓練を報道したものではない。
 演習参加部隊は、それぞれの訓練基地に展開して、個別に基礎的な訓練を行っていると言っているのだ。
 シナリオを用いた応用訓練であれば、長くても1カ月程度というのが一般的である。

 また、中国のインターネットや報道などで公開されている「陸軍の演習の様子を撮影した」とされる写真の中には、射撃する戦車の砲塔の上やキャノン砲の傍らで、手に持った赤い手旗を上げている姿が写っているものが数枚ある。

 これは、日本でも射撃訓練を行う際に見かける光景で、「自分の車両或いは砲が射撃する」ことを周囲に示し、危険を回避するよう注意喚起するための動作である。
 陸軍の各部隊は、少なくとも、長期にわたる演習期間の初期には、射撃等の個別訓練を、順に行っているのだと言える。

■「戦えるようになれ、勝てるようになれ」

 中国の報道によれば、今回の演習の目的は、習近平指導部が求める実戦能力の向上を図ることにある。
 日本では、8月15日の終戦記念日、9月11日の日本政府による尖閣諸島購入、9月18日の柳条湖事件等、中国にとって敏感な日が続く時期に演習を実施することについて、日本を牽制する狙いがあると言われるが、中国の報道もまた本音を述べている。

 2012年12月、党総書記、党中央軍事委員会主席に就任したばかりの習近平主席は、広州軍区を訪れ講和を行った。
 講和で用いられた「戦えるようになれ、勝てるようになれ」という言葉は、現在では人民解放軍でスローガンとして繰り返し用いられる。

 習主席が、主席就任早々、
 「戦えるようになれ」と号令しなければならなかったのは、人民解放軍が戦える状態にないからに他ならない。
 少なくとも、中国指導部はそのように認識している。
 しかも、指導部と言うのは、習近平指導部だけではない。

 胡錦濤前主席は、既に、人民解放軍が戦える状態にないことに危機感を有していた。
 そして、実際の努力も行っている。
 2006年6月、人民解放軍全軍軍事訓練会議に出席した胡錦濤は、「厳しい訓練を実施してこそ強軍になる」と述べ、「実戦の必要性から出発し、困難で厳しい訓練を実施せよ」と号令をかけた。

 また、
 「機械化条件下の軍事訓練から情報化条件下の軍事訓練への転換を自覚的、自主的に進めなければならない」
とも述べている。
 指示は「機械化から情報化への転換」に限定しているが、要は、「自分で考えて訓練しろ」と叱っているのだ。
 そして、胡錦濤は同年10月に「訓練大綱」を発布した。
 当時の中国メディアは、「人民解放軍の訓練は歴史的転換を遂げた」と報じている。

■軍に腐敗を蔓延させた江沢民

 胡錦濤が「実戦的な訓練をしろ」と号令をかけなければならない状態に人民解放軍を陥れたのは江沢民だ。
 中国軍関係者によれば、江沢民が
 「訓練で死者を出してはならない」
と指示したことから、各部隊は、これ幸いと、真剣に訓練をしてこなかったのだという。

 江沢民時代は、人民解放軍にも腐敗が蔓延した。
 江沢民は、軍に自らを支持させる代わりに、厳しいことを言わず、それどころか、汚職増大の土壌を提供したのだ。
 多くの軍人は、訓練をおろそかにし、不正蓄財に精を出した。
 当時、中央軍事委員会副主席の座にあった胡錦濤は、この様子に危機感を持ったからこそ、自らが主席になった際に軍を叩き直そうとしたのだ。

 しかし、である。
 「歴史的転換」は、それまでと同じ表面的な粉飾でしかなかった。
 それまでも、白字でスローガンを書いた赤い横断幕を掲げたその前で陸上戦闘訓練を行っている写真などが報道されている。
 また、浮上した潜水艦から発射された魚雷が水面を跳ねていく写真が報道されたこともある。
 訓練としては全く意味のない行為だが、ただ単に、訓練していることをアピールするために、滑稽な写真を報道することになったのだ。

 胡錦濤の指示を受けた各部隊は、こぞって、いかに実戦的な訓練をしたかをアピールしようとしたが、これも滑稽な訓練の様子を呈することになってしまった。
 いや、この時は滑稽では済まなかった。
 「実戦的」をアピールするために、けが人が出るとは思えない訓練でも、けが人を続出させたのだ。

 結果として、胡錦濤は、
 「訓練は、実戦的でなければならないが、安全でもなければならない」
と、指示を出し直さざるを得なくなった。
 笑い話にもならない。
 人民解放軍では、訓練の質と安全を両立させることを「双赢(二つの勝利―Win-Winの意)」とも呼んだ。
 そして、2008年7月に「人民解放軍安全条例」が発布されるに至ったのである。

 結局、胡錦濤は江沢民の影響から逃れることはできなかった。
 中央軍事委員会副主席の座には、依然、徐才厚が居座り、江沢民の影響力が残っていることを厳然と示していた。
 胡錦濤が軍内に影響力を及ぼすことは難しかったのである。

■「訓練の実戦化」をやり直す習近平

 2014年3月21日、人民解放軍総参謀部は、中央軍事委員会が示した「軍事訓練の実戦化の水準を高めることに関する意見」を徹底させるため、
 「强军必兴训 实战先实训(訓練をしっかりしてこそ強軍になる。
 実際に戦うためには先に実戦的な訓練が必要である)」
と通知を出した。
 胡錦濤が掲げた「强军必须兴训治训务必从严(厳しい訓練を実施してこそ強軍になる)」というスローガンと、同じ表現である。

 これは、習主席が進めようとすることが、胡錦濤が進めようとしたことと同様であるということを意味している。
 胡錦濤が達成できなかった「訓練の実戦化」をやり直すという意味なのである。

 そして、人民解放軍の大規模演習が始まった。
 開始されたのは、徐才厚が党籍はく奪処分を受けた後の7月である。
 各軍種及び大軍区の高級将校たちとは既に手打ちもできている。
 習主席は、江沢民の影響を排除し、軍内をある程度掌握したからこそ、厳しい訓練を人民解放軍に強要することが出来るようになったとも言える。

■改革は成し遂げられるか

 軍内の腐敗が正されて予算が適正に執行され、本気で訓練を重ねれば、人民解放軍は、本当に手ごわい軍隊になるだろう。
 しかし、またもや、「しかし」である。
 これまで、中国ではこうした改革が成功した試しはない。
 現在でも、面従腹背の状況は改善されていない。

 2014年7月16日に開かれた国務院の幹部会議で、李克強首相が、各省庁及び地方の幹部に怒りをぶちまけた。
 「いくつかの地方や部門は仕事の手配は重要そうにやるが、実施するときは手軽にやる」、
 「困難にあうと避けて通る」、
 「なまけたり、手を抜いたりする」、
 「形だけ実行する者がいる」
等の李克強首相の表現は、中国指導部の指示に対する各部の面従腹背ぶりを示すものだ。

 人民解放軍も例外ではない。
 軍は、自ら「ようやく真面目に訓練するようになった」とは言えないだろう。
 出来る段階にないものを出来ているように見せる可能性もある。
 この段階で統合演習などを実施したとしても、結局、中身を伴わない表面的なものに過ぎない。
 しかし部隊は、中央に自らの功績をアピールするために、「高度で困難な訓練」を実施したと誇張しがちなのだ。

 また、面子のために演習の本当の目的を言えないとすると、別の理由を付けてくるかも知れない。
 対日牽制である。
 したがって日本は表向きの理由に過度に反応する必要はない。
 必要とされるのは、人民解放軍の「訓練の実戦化」がどの程度実現されるのか、現在展開されている演習を注意深く見守ることだろう。



JBpress 2014.08.22(金)  宮家 邦彦
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/41549

中国は今の人民解放軍で本当に戦えるのか
自衛隊と人民解放軍の違い

 日清戦争から120年の今年に入り、中国では解放軍内の不正・腐敗が有事の戦闘能力に及ぼす悪影響を懸念する声が高まっているという。
 8月19日付北京発ロイター通信記事は、解放軍幹部・国営メディアなどで、
 「戦争になっても勝てないのではとの疑念も出ている
とまで報じている。

 一方、日本の自衛隊についても新しい発見があった。

 実のところ、この原稿は御殿場からの帰りの車内で書いている。
 陸上自衛隊の富士総合火力演習のリハーサルと国際活動教育隊を見学させてもらったのだが、なるほど自衛隊もやるものだと感じた。
 という訳で、今回のテーマは「日中もし戦わば」である。

■中国国内の懸念


●陸上自衛隊による東富士演習場による実践演習〔AFPBB News〕

 例によって、関連報道・事実関係をまとめてみたい。まずはネット上で拾ってきた中国内の論調から始めよう。

 今年7月は日清戦争開戦120周年だ。

 中国共産党の機関紙「人民日報」や人民解放軍の機関紙「解放軍報」などでは同戦争の敗因分析が活発に行われているらしい。
 各種報道を読む限り、中国側はこの件につき共産党・軍主導で組織的かつ大規模なキャンペーンを張っているようだ。

 こうした背景には、今も軍にはびこる不正・腐敗や海洋主権確保能力に対する習近平総書記の危機感があるとの見方が根強い。

 だがこれとは別に、党内・軍内・学会には
 1894年当時圧倒的に優勢とされた清帝国が日本に敗れた理由、その教訓に学ぶべきだとの論調が少なくないという。
 少し具体例を挙げよう。

●甲午(日清)戦争に敗れた真の原因は、清朝の政治体制・官僚制度・軍隊が腐敗・堕落していたからである。(光明日報)

●明治維新後に「殖産興業」を進め、西側資本主義の社会制度を導入した日本に対し、清が1860年代に展開した「洋務運動」は社会制度に触れず、改革の効果も日本に及ばなかった。(社会科学院研究者)

甲午戦争の敗勢は、根本的に清の内政・外交の全面的な失敗が引き起こした。
 今日の中国も当時と同様、全面的な改革が歴史的任務であり、改革の成否が国家の未来を決める。(第一財経日報)

●海洋権力の喪失が近代中国の落後を加速させた。海洋強国を建設する歴史的使命は、既に現代中国人の双肩にかかっている。(人民解放軍後勤学院教授)

■ロイター通信の記事

 こうした中国内の状況を8月18日付北京発ロイター通信記事は次のように伝えている。

●東・南シナ海をめぐり周辺国との緊張が高まる中国で、最近人民解放軍の不正・腐敗に対する懸念が高まっている。

現職・退職幹部や国営メディアからは、あまりの堕落ぶりに戦争になっても勝てないのではないかとの疑念も出ている。

●中国政府系メディアはここ数カ月、人民解放軍ではびこる汚職と軍の腐敗が120年前の日清戦争における中国の敗北につながったことを関連付けた記事を相次いで掲載している。

軍の腐敗体質は、谷俊山・元総後勤部副部長と徐才厚・元共産党中央軍事委員会副主席の収賄容疑という2件のスキャンダルにより改めて浮き彫りにされた。

軍高官らが懸念するのは、中国で長年にわたり公然の秘密となっている幹部ポストの売買だ。
 こうした悪弊が優秀な人材の排除につながっているからである。

●軍の元幹部で論客として知られる羅援氏は「腐敗幹部が現れ続ければ、軍にいくらお金を投じても足りないだろう」と指摘した。

●同幹部は、「徐才厚や谷俊山のような腐敗幹部が吸い上げたお金は数億もしくは数十億元になる。
 これで何機の戦闘機が作れるのだろうか。
 腐敗を取り除かなければ、戦う前に敗れるだろう」と述べた。

■イラク正規軍と同じ病根

 このロイター記事を読んで、筆者は思わず唸ってしまった。
 「これじゃ、イラク正規軍と同じじゃないか」。

 これにはちょっと注釈が必要であろう。
 筆者の念頭にあるのは、6月10日にイスラム過激派組織「イラクとシャムのイスラム国(ISIS)」がイラク北部の同国第2の都市モスルを占領した事件だ。

 2011年末に米軍がイラクから撤退した際、イラクには米軍が巨額の軍事費を投入し、8年間手塩をかけて育て上げた正規軍が存在した。

 イラク中から優秀な人材を集め、人種や宗派に関係なく養成したベストの人材を管理職に登用した。
 恐らく当時新イラク軍はアラブ諸国で最も強力な軍隊だったろう。

 そのイラク国軍の精鋭部隊を当時のヌーリー・マリキ首相が滅茶苦茶にしてしまった。
 国防相を兼任していた同首相は、人事権を濫用してスンニー系・クルド系の優秀な各部隊司令官をことごとく更迭し、同首相に近い無能のシーア派軍人を任命したからだ。

 もちろん、彼ら目的は贈収賄によるイラク国軍の私物化である。
 米軍撤退後3年にして、イラク国軍は不正・腐敗に塗れた「汚れた軍隊」に成り下がってしまったのだ。

 当然、各部隊の兵士たちはやっていられない。
 こんな汚れた連中のために命を賭ける気などさらさらないからだ。

 そこにISISがシリアからイラク北部に帰ってきた。
 イラクは数日間の戦闘でモスルを守る正規軍6個師団の兵員と装備を失った。

 6個師団と言えば正規軍全兵力の約4分の1だが、理由は戦死ではない。
 下級兵士の大半は軍服を脱いで実家に帰ってしまった。
 イラク正規軍は戦わずして「蒸発」したのである。

 この話、限りなく人民解放軍の現状に近いのではないか、と懸念するのは筆者だけではなかろう。

 中国の識者の中には、
 「19世紀末当時の清朝の軍隊に存在する問題はその多くが今と似ており、それはコネを利用する点や、派閥、腐敗等が含まれる
といった辛辣な意見もあるようだ。

 彼らは、
 「拡張と現代化(明治維新)の時期の日本軍隊は規律と責任感を強めたため、清朝の北洋艦隊を粉砕できた」
と考えている。
 清朝軍隊とイラク正規軍と人民解放軍。これら3つの軍隊組織には、気味が悪いほどの共通点がある。
 だが、三者の共通点はこれだけではない。

■急激に拡大した軍の弱点

 もう1つの重要な共通点は「軍隊の急激な拡大と近代化」だ。
 イラク正規軍もたった8年間で米軍と同じ最新装備を持つ近代的軍隊に変貌を遂げた。
 見てくれは確かに変わったが、中身は同じイラク兵士だ。
 そんな複雑な装備を一朝一夕で使いこなせるようになるはずはないのである。

 最新兵器を持つ新しい部隊の数が急激に増えても、全体の戦闘能力は直ちに向上しない。
 それどころか、新装備、新編成、新戦術に完熟するにはざっと5年10年の時間がかかる。
 そもそも、既に不正・腐敗で大幅に士気が低下していたイラク軍は、保持する装備品ほど強力な軍隊ではなかったのだ。

 このことは現在の人民解放軍にも言えることだろう。

 最近、南シナ海や東シナ海で米海軍や海上自衛隊・航空自衛隊に対する様々な嫌がらせが起きている。
 このように短期間で急激に拡大しながら
 兵員の練度が追いつかない未熟な軍隊ほど危険
なものはないのである。

 日清戦争直前、日本の陸上部隊は国軍として編成・装備が統一され、訓練・士気ともに高く、質的に清国軍を大きく凌駕していた。

 これに対し、清国本来の正規軍である八旗と緑営の軍制は乱れ、精神的にも腐敗堕落し、阿片戦争、太平天国の乱などを通じて、もはや軍隊として機能しなくなっていたという。

 さらに、当時の
 日本海軍は清国艦隊に総隻数、総トン数、巨大戦艦などの面で劣っていたものの、
 部隊の士気、技能、指揮統率面で清国海軍よりもはるかに優れていた。
 これに対し、数で勝る清国海軍には旧型艦艇が多く、訓練・士気ともに劣り、指揮権も訓練も統一されていなかったそうだ。

■陸上自衛隊の練度の高さ

 夕方まで御殿場にある陸上自衛隊国際活動教育隊で訓練を見学していた。
 PKO(平和維持活動)活動に投入される隊員の訓練のレベルは筆者の想像を超えていた。

 例えば、自動小銃への実弾の装填・抜弾訓練だが、2人の隊員が代わる代わる、一つひとつの確認動作をお経のように唱えながら装填・抜弾を繰り返していた。

 中東では米国、英国、豪州など各国軍隊の実弾装填・抜弾作業を何度も見てきたが、これほど美しい動きは見たことがない。
 これはもう単なる装填・抜弾動作ではなく、「茶道」、「華道」のような「様式美」のレベルに到達している。
 これこそ実弾の「装填道」と「抜弾道」、中国人には絶対無理だと思った。

 たまたま居合わせた豪州軍人にも聞いてみたが、豪州でこれほど深く(in depth)装填・抜弾動作を訓練することはないという。

 陸上自衛隊の人に聞いたら、
 「それはそうでしょう、でも日本人がやると、どうしても様式ができてしまうのです」、
と笑っていた。
 これが日本の自衛隊の士気と規律の根源だと実感した。

 もちろん、120年前と同じことが繰り返されるとは思わない。
 一番良いのは日中がお互いに衝突しないことだろう。

 現在の人民解放軍がイラク正規軍レベルだとも言わない。
 しかし、120年前の清朝軍レベルのままである可能性は十分ある。
 現在の中国国内の議論が建設的な結論に至ることを期待したい。


サーチナニュース 2014-08-11 13:25
http://news.searchina.net/id/1540194

中国軍内部に動揺・対立か・・・「政治上の自由主義を防げ」と指示

 中国人民解放軍内の政治査察機関である同軍総政治部がこのほど、
  「国防と軍改革を深める教育宣伝の提要」
を配布したことが分かった。
 同提要には、
 「勝手に議論をするな」、
 「政治上の自由主義を防げ」
などという内容が盛り込まれている。
 中国軍内部で政治路線などについて、動揺あるいは対立が広がっている可能性がある。

  総政治部は政治委員(政治将校)制度を通じて、軍の統制を行う。
 軍の宣伝、思想、政治、組織、規律などを実施し、軍事法院(軍事裁判所)や軍事警察も所管している。
 現在のトップは2012年10月就任の第14代の張陽上将(大将)。
 第12代の徐才厚主任(在任:2002年11月-04年9月)は中央軍事委員会副主席を務め2012年に引退したが、2014年6月30日、収賄などの不正行為で党籍を剥奪され、検察部門に訴追されることが決まった。

  総政治部が配布した「提要」は中国語で約1700文字、日本語に翻訳すれば3000文字以上にはなる、かなり長文だ。
  「提要」は、習近平中央軍事委員会主席(国家主席、共産党総書記)が国防と軍の改革を極めて重視しており、自らが組織を配置し、自らが指導して推進しているなど、改革の推進を強く求めた。
 改革については、制度改革や現代戦に勝利するためにも、
 「改革を積極支持せよ。意識をもって改革に身を投じよ」
などと繰り返し主張したが、改革の具体的な内容をとりわけ明示しているわけではない。
  ただし、軍人に対して
■. 「思想上、政治上、行動上において一貫して、党中央と中央軍事委員会、主席(習近平)と密接に一致させよ」、
■. 「政治上は一貫して、しっかりと覚醒し、政治規律、組織紀律、機密保持の紀律を厳守し、人々を誤らせ、改革を妨害する間違った言論を一貫して受け入れるな」、
■. 「勝手に議論をするな。
 噂に耳を傾けるな、信じるな、広めるな。
 政治上の自由主義を断固として防げ」
と、上部に対する服従を求めた。
  さらに
■. 「部隊の将兵にとっては、大局に服従し、指揮に従い、自分の任務を完遂し、本来の職務をしっかりとやることが、改革を深める力強い支持なる」
と、職務に専念することを求めた。

  中国軍が内部向けに配布する文書で、共産党や中央軍事委員会、同委主席への服従を求めることは通例だが、同「提要」では、「間違った言論」、「政治上の自由主義」などの用語を多用し、
 統制に服さない雰囲気を警戒する雰囲気が、とりわけ濃厚だ
  習近平国家主席は、2008年に国家副主席に就任したことで、胡錦濤前主席の後継者の地位を確定した。
 それ以前には、胡前主席と政治的立場が近い、李克強首相を後継者とみなす声が強かっただけに「大逆転」などとも評価された。
  習国家主席は、共産党長老や軍の支持を得て、中国における最高権力者の地位を得たとされる。
 しかしここにきて、軍内において政治方針についての動揺や考え方の対立が拡大している可能性がある。

 **********

◆解説◆ 
  習近平主席については、政権発足後1年半ばかりが経過しても
 「思想の本質や、何ををやりたいのかが、あまりはっきりわからない」
という点がある。
 ナンバー2の李克強首相については比較的明快だ。
 李首相は経済分野について、規制緩和による経済体質の改革を図っている。
 李克強首相が政権内において目指す“演じどころ”は、かつて国有企業改革で手腕を振るった朱鎔基首相と似ているといってよい。
  李首相にとって最大の障害は「既得権益層」ということになる。

 一方で、習近平政権が実施している「腐敗撲滅」の対象は、「既得権益層の中でも特に極端な人物」となるので、両首脳の「利害関係」は合致する。
  李首相とは違って「やりたいこと」がなかなか見えない習近平主席だが、就任以来、「人事の問題」を通じての政権掌握を重視しているように見える。
 就任の経緯からは、長老や軍から「コントロール」されやすい政権になりかねないが、腐敗撲滅運動で、長老らの過度の干渉に対する「報復手段」を確立しつつある格好だ。

  習政権はこれまでに、共産党中央政治局の周永康前常務委員や、徐才厚中央軍事委員会前副主席を、腐敗問題で断罪した。
 両氏ともすでに引退しており、中国のこれまでの慣例を打破し「引退した最高指導層経験者の責任を問う場合もある」ことを示したことになる。
 言い方を変えれば、「長老でも容赦しない」という意志表明でもある。

  腐敗撲滅運動は、国民の支持を強めることにもつながるという点でも、権力基盤の確立には有効だ。
 習主席は、内政において重要な経済については、李首相に「ほぼ丸投げ」状態とみてよいだろう。
 気になるのは今後、どのような方針で外交に臨むかということだ。
 これまでのところ習主席は「中国の夢」などという用語を使い、自国民の優越感を“くすぐる”手法を採用している。
 同手法は一般大衆からの支持獲得という点では有効だが、自国の優越性を印象づけた場合、国外との協調路線を取りにくくなるという“副作用”が生じやすい。 
 中国の場合にはこの“副作用”がとりわけ強く出現することが多く、
 「自国の正しさ」、「自国の強さ」に言及すると、
 個別の案件について「外交にはつきものの譲歩による“落としどころ”」を模索した場合、
 共産党や政府は「軟弱外交」と大きな非難を浴びることになる。
  さらに、協調路線に対する国内批判が高まったことが「政敵に利用」されることもある。

   中国ではこれまでも、内部の権力争いが国としての外交方針を左右する傾向が強かった。
 習近平主席も外交について「思想上の本音」にはあまり関係なく、強硬姿勢またはポーズをとり続ける可能性がある。
  その場合、外交問題で中国と対立した諸問題について、
①.「筋道論を貫いて中国と対決を続ける」のか、
②.「形式的には中国側に“面子(メンツ)”を持たせ、実質的にはこちらが多くを得る」のか、
いずれの“作戦”を採用するかの判断が必要となる。



【描けない未来:中国の苦悩】




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