2014年9月15日月曜日

進まぬ改革:中国のリコノミクスは幻だったのか:中国経済の崩壊はないが、GDPが米国を抜く日は来ない

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ロイター 2014年 09月 12日 13:07 JST
John Foley
http://jp.reuters.com/article/jp_column/idJPKBN0H708J20140912

コラム:中国のリコノミクスは幻だったのか


● 9月11日、1年前、中国の李克強首相は市場主義経済の旗手のように見えた。それが今では傍観者の様相を帯びている。天津で10日撮影(2014年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

[天津 11日 ロイター BREAKINGVIEWS] -
 1年前、中国の李克強首相は市場主義経済の旗手のように見えた。
 それが今では傍観者の様相を帯びている。
 資本主義改革、そして外国人投資家の優先順位は下がってしまった。

 10日に中国で開かれた世界経済フォーラム(WEF)の夏季ダボス会議における李首相の講演が、そうしたトーンを決定付けた。
 昨年の同じ会議で首相は、資本管理の緩和から銀行預金保険まで、金融改革のリストを並べ立てた。
 それが今年は中身が空っぽの美辞麗句ばかり
 「イノベーション」という単語が34回も登場した。

 懸念すべきは、市場改革が脇に追いやられていることだ。
 過去最大を記録した8月の貿易黒字を、
 あるいは4兆ドルを超えてなお増大中の外貨準備を見るだけでよい。
 いずれも管理為替制度と資本管理を反映した数字である。
 人民元は1月の高値以来、実質実効レートで6%下落した。
 金融商品のデフォルトを看過するとか、非戦略的国有企業の管理を放棄するなど、その他の面でも進展の兆しは見えない。

 市場改革が減衰するとともに、李首相の影響力も衰えた。
 改革を管轄するために設立された共産党の「指導グループ」は、習近平総書記(国家主席)がトップに就いている。
 これまではトップ2人体制をとり、経済問題は少なくとも表面上、首相の裁量に任せる傾向があったが、そうした体制からの決別となる。
 李首相が1年前にぶち上げた
上海自由貿易試験区(FTZ)はほとんど成果を収めていない。

 一方、小粒な改革は小粒なままにとどまっている。
 李首相は昨年3月以来、600の行政手続きを撤廃、あるいは他に委任したと誇らしげに発表した。
 しかし未だに新支店を開けず、中国の総銀行資産のわずか2%にとどまる外資系銀行にしてみれば慰めにもならない。
 開始を間近に控えた上海・香港間の株式取引計画は進展しているが、厳しい取引枠が課せられており、資金を呼び込むより流出させる効果の方が大きいかもしれない。

 もっとも、李首相の時代が今後到来する可能性は残っている。
 汚職摘発、そして中国の主要議題となっている談合をめぐる捜査も重要だ。
 市場管理の緩和を早まると事態をさらに悪化させかねない。
 とはいえ熱狂は冷めつつある。
 「リコノミクス」の時代到来を歓迎した投資家は、それが幻だったことを嘆いていることだろう

*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。



ロイター 2014年 09月 13日 22:08 JST
http://jp.reuters.com/article/kyodoMainNews/idJP2014091301001321

中国の工業生産6・9%増

 【北京共同】
 中国国家統計局は13日、8月の工業生産は前年同月比6・9%増だったと発表した。
 7月の9・0%増から大きく減速、
 リーマン・ショック後の2008年12月に記録した5・7%以来、
 5年8カ月ぶりの低い水準となった。

 政府が進める構造改革により民間の投資が減速しているとみられる。

 建設投資や企業の設備投資を含む1~8月の固定資産投資額も前年同期比16・5%増と、伸び率が1~7月の17・0%から縮小した。



レコードチャイナ 配信日時:2014年9月15日 7時14分
http://www.recordchina.co.jp/a94086.html

中国経済の崩壊はないが、GDPが米国を抜く日は来ない
=中国の統計水増しか?―元通産省北東アジア課長


●通産官僚時代に駐中国日本大使館参事官や北東アジア課長などを歴任した津上俊哉氏は、日本記者クラブで講演し、中国経済の高度成長は終了し「中国のGDPが米国を抜く日は来ない」と分析。政治、外交も含め今後の中国を大胆に予測した。

 2014年9月10日、通産官僚時代に駐中国日本大使館参事官や北東アジア課長などを歴任した津上俊哉氏(津上工作室代表取締役)は、日本記者クラブで講演し、
★.中国経済の高度成長は終了し
★.「中国のGDPが米国を抜く日は来ない」
と分析。
 政治、外交も含め今後の中国を大胆に予測した。
 津上氏は「中国台頭の終焉」「中国停滞の核心」などの著作を通じて中国の経済社会の動向を辛口トーンで展望、精緻な分析力に定評がある。

■講演要旨は次の通り。

 中国政府は、内陸の膨大なインフラ需要、都市化の進展、産業の内陸移転などにより日本韓国、台湾など他の東アジア諸国が中速度成長に移行した後の状態よりは高めの成長が続くと見ている。

 中国では約10兆円を投入した過去5年間の投資ブームの後遺症が不動産や金融などの面で深刻化。
 無理な投資を続ければハードランディングに陥る。
 7.5%成長の継続は無理との認識から、中国当局はポストバブル期の経済運営の在り方を模索。
 景気下降は瀬在成長率の低下による構造的なものであり、
 今後は効率重視の中高速成長時代を目指すべきだとする「新常態(ニューノーマル)」論を展開している。

 一方で、景気急落を避けるため、落ち込む投資を中央財政出動や特定銀行・用途指定の金融緩和などで補う政策を継続している。
 中央財政は外債に依存しておらず、
 資金力も豊富なので負債を積み上げても大丈夫だが、
 その先には、日本の財政の現在の姿に近い姿が待っている。
 改革が実現するまでの「時間を買う戦略」と言えるが、改革が進むかがカギとなる

◆地方政府の債務危機、中央政府が救済

 多くの日本人は中国経済が崩壊すると予想しているが、
 バブル崩壊はない
 日本とは経済構造が異なり強力な権限を持つ中央政府が対応しているからだ。
 中央の財政も抜群に健全であり、地方政府の債務危機も上級政府が救済する。
 地方政府も5月から独自の市場救済策を講じている。
 銀行は国有であり、不良債権処理も最後は国庫が拠り所となる。

 日本型の不動産バブル崩壊は起きない。
 ただ、上物の建設が落ち込み、建設、鉄、セメント、家電などの業界に影響を与える。
 中小開発業者の破たんの増加により、民間金融を中心に不良債権が増加。膨大な借り入れを土地収入に頼って償還している地方政府が債務危機に直面する。

 長期的(2025年~)には少子高齢化の影響が深刻化、
 日本の15年の時差で日本を追走する。
 実質成長が困難になる可能性が高い。
 一方で米国はシェールガス革命で経済が活性化し、移民受け入れで少子高齢化と無縁である。
 中国のGDP統計は水増しされており、中国の実際のGDPが米国を抜く日は来ないだろう。

 習近平国家主席への圧倒的な権力集中を背景に、2013年11月の三中全会で打ち出された規制緩和、権限委譲、国有企業改革、経済改革、司法改革、戸籍改革、地方財政改革が動き出しつつある。
 「体制変革」に近い難事業だが、習主席は、「2020年までに改革達成」へ背水の陣を敷いており、これらの大胆な改革が実現するかが命運を握るカギとなる。

 習近平政権は
(1).権力の集中と党内派閥(太子党、共産主義青年団)の解消
(2).空前絶後の腐敗撲滅
(3).大胆な改革
(4).改革の一方で厳しく言論統制、保守派とも統一戦線を結成―
などを推進している。
 これらすべての方策は「体制の危機感の高まり」に起因
しており、「救国政権」と言える。
 広範な階層から支持されており、「開明的な専制君主」や「中興の祖」となる可能性もある。
 「皇帝が進める市場化改革」と言えるが、公民社会、言論の自由なしに進展するかどうか。
 改革が進展しなければ、急速にレームダック化する恐れもある。

 習政権の政策方針は、国内の難局突破が最優先であり、対外関係は「安定」を基本としている。
 敵を少なくして味方を増やす作戦だ。
 特に米国とは「新型大国関係」を提案し、良好な関係の維持発展に注力している。
 国民には「中国の夢」をアピールし、軍や保守派とも妥協する姿勢を示している。

◆本音は経済重視、対日批判は「歴史修正主義」の一点

 対日関係は「政経分離」から修復に向かう可能性がある。
 東シナ海の緊張は負担であり、経済関係は傷つけたくないというのが本音。
 習主席の対日批判は「歴史修正主義」の一点であり、抑制的である。
 強硬に見える発言は、保守派の突き上げを阻止するための予防措置の面が強い。
 この一点は世界のほとんどの国が賛同するとの自信もあるようだ。

 「中国は国民の目をそらすために対外挑発している」との見方があるが、習政権はそのようなことはしない。
 挑発の効果は一時的であり、習政権は2022年まで続くので、後がつらくなるからである。
 強力な習主席は脆弱だった胡錦濤氏よりも交渉相手として理想的と言える。

 「現状変更」を「現状復旧」と見る
 中国の姿勢は「おのれの限界」を悟らないと改まらない。
 一方で、
 日本国民の極端な反中感情も「中国の台頭は過去のものになった」と感じるまで消えない。
 したがって不安定な日中関係はあと10年は続くことになろう。
 「流動的で危険な10年間をいかにくぐり抜けるか」
で、21世紀の日本の命運が左右される。
 まず尖閣諸島での偶発事態の予防回避策が死活的に重要である。


ロイター 2014年 09月 16日 13:51 JST by John Foley
http://jp.reuters.com/article/mostViewedNews/idJPKBN0HB0AT20140916

コラム:中国の悲惨な統計、実体経済悪化の「予兆」か
 9月15日、中国の経済統計は13日発表の各種指標に見て取れるように悲惨な数字だが、実体経済と経済学の世界を切り離しておけると考えるのは甘い。

[北京 15日 ロイター BREAKINGVIEWS] -
 中国の経済統計は13日発表の各種指標に見て取れるように悲惨な数字だが、一般国民にとっては取るに足らないことだ。
 政府の政策当局者が統計の急激な減速への対応であからさまに切迫感を欠いているのも、それが理由だと説明できる。
 しかし実体経済と経済学の世界を切り離しておけると考えるのは甘い。

 8月の鉱工業生産は前年比6.9%減と、2008年以来で最低を記録。製造業の稼働率を測る手掛かりとなる発電量と輸入は、いずれも前年比で減少した。

 しかし李克強首相は先週、天津で開かれた世界経済フォーラムで、都市部の雇用創出がほぼ年間目標に近い数字を達成したと高らかに発表し、成長てこ入れのため大規模な信用を供給する必要はないと述べた。

 李首相はある意味で正しい。ほとんどの国民は生活水準が上がっているのだ。
 操作が簡単な国内総生産(GDP)のような統計は、雇用、賃金の伸び、消費力といった指標に比べて見劣りする。
 これら3指標はいずれも堅調だと見受けられる。
 8月の小売売上高の減速はわずかで、しかも名目で見た場合だ。

 北京大学の調査によると、大学卒業生の賃金の伸び率は年15%に達する。
 もっとも月額給与は492ドルと、一般的なタクシー運転手並みではあるが。

 そうはいっても、あまりにも悪い統計は実体経済で問題が起きる予兆かもしれない。
 企業は生産が減れば債務返済能力が弱まる。
 企業の銀行借り入れはGDPの95%に相当する。投資家は既に信託商品のような代替的商品から資金を引き揚げており、7月には信託商品の運用資産が初めて減少した。
 都市部は短期融資の広告で溢れている。

 実体経済の世界と経済学の世界を結ぶ重要なリンクは不動産だろう。 
 不動産は複数の都市で購入規制が撤廃されたにもかかわらず、大都市のほとんどで価格が下落している。
 8月の住宅販売は前年比13%減少し、何らかの刺激策が不可避に見え始めている。

 李首相が実体経済世界で国民の満足感の維持に気を配るなら、警戒リストの上位に住宅価格が入っていることだろう。

●背景となるニュース

*].中国国家統計局が13日に発表した8月の鉱工業生産は前年同月比6.9%増となり、
2008年終盤以来の低い伸びとなった。
 世界金融危機に見舞われたこの時期を除くと、02年以来で最悪。

*].発電量は前年比2.2%減。
 他の主要統計では、内需と関連する輸入が同2.4%減少した。
 小売売上高は11.9%増で、過去3カ月の12%以上の水準から伸びが鈍化した。
 ただRBSの試算によると、インフレ調整後では小売売上高の伸びはやや加速した。

*].公式統計に基づくBREAKINGVIEWSの試算では、住宅用不動産投資は前年比7%増で、伸び率は7月の11%から大幅に鈍った。
 住宅販売床面積は前年比13%減で、7月の18%減からやや持ち直した。

*].李克強首相は10日、天津で開かれた世界経済フォーラムで、中国経済は基本的に安定していると述べるとともに、短期的な数字の動きにとらわれないよう警告した。
 また1─8月に都市部で970万人の雇用が創出されたと述べた。

*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。


ウオールストリートジャーナル 原文(英語) 2014 年 9 月 17 日 17:52 JST
http://jp.wsj.com/home-page

【社説】不幸な中国のエリート、不明瞭な政治体制の産物

 中国では今年これまで、30人余りの政府高官や国有企業の幹部が自殺したとされている。
  中には贈収賄の取り調べを受けていた人物もいた。そのことは、習近平国家主席が指揮している汚職取り締まりを彼らが本当に恐れていることを示している。


 国内の評論家は、汚職の取り締まりが最高指導部をたたえる理由にはならないと述べている。
 一部の幹部は拷問を受けて自白を強要されたと訴えている。
 粛正は正義とは異なる。

 国内経済の鈍化で、民間企業の幹部も追い詰められている。
 昨年6カ月間に自殺した実業家の数は、浙江省温州市だけで80人を超えた。

 起業家たちは、中国でひともうけすることは自分の背中に的を描くようなものとこぼす。
 これが、長者番付が中国で「のろいのリスト」とも呼ばれる理由だ。
 他の国々と異なり、中国の実業家の多くは、長者番付に入ることを望まない。
 名前が載れば目を付けられ、その先には破産か逮捕の道が待っているからだ。 

 ここに潜むのは実業家たちのジレンマだ。
 中国では財産権が保護されていない。
 また、官僚が裁量権を持っていることは、正直な実業家が会社を奪われる可能性があることを意味する。
 こうした環境では、共産党指導部との人脈作りが自らを守る唯一の方法となる。
 となれば、企業の幹部が贈賄の罪に問われるようになるのも無理はない。

 汚職がはびこる中国の文化や権力の乱用は、多くの富裕層が国外への移住を望む大きな理由となっている。
 バークレイズが15日公表した調査では、中国の富裕層(総資産150万ドル=1億6000万円超)のうち47%が海外移住を考えていることが明らかになった。
 これはこれまでの調査とほぼ結果だ。
 先進国の中には、海外の投資家に国内の居住用不動産の取得を認めるプログラムを用意しているところもあり、多くの中国人を引きつけている。

 中国の優秀な若者も多くが海外に出たいと願っている。
 国営新華社通信によると、留学後に帰国しなかった学生の数は、2012年に7万人に達した。

 人生を楽しむための方法も、その余力もあるはずの富裕層が、中国では自殺に走り、海外移住を考える。
 これは法の支配の欠如だけが原因ではない。
 大気汚染問題や食の安全が脅かされる事件など、生活環境の悪化も一因であるのは間違いない。
 しかしこれらは同時に、分かりにくい政治体制が生んだものでもある。
 共産党は02年以降、社会のあらゆる領域のエリートを代表すると主張しているが、エリートたちはそうは考えていない。



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